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星の光は窓枠の形に切り取られて部屋に滑り込む。梟の鳴き声は遠く、幽かな風の音が今日の日の終わりを持ち去って駆け抜ける。時計の針は天辺で再会しようとしている。
疲れ切った子供はわずかに口を開けて、すうすうと規則正しい呼吸音を漏らしながら深く寝入っている。夢を見ているのだろうか。そこにはロスはいるのだろうか。たいした中身のない、けれど少しばかり切実な祈りを込めて、青年は身を乗り出した。
木製の寝台が二人分の体重をうけてぎしりと音を立てた。眠る少年の肩のあたりに手をついて、両ひざで彼の胴を跨ぐ。ロスの影がアルバに落ちかかる。ゆっくりと、自分を焦らすように、時間をかけて、肘を曲げていく。顔が近づいていく。心臓の鼓動が近づいていく。幸せそうに何事かを呟くアルバは目を覚ます素振りも無い。ゆるく微笑む頬の曲線が奇妙な波長でロスのやわらかな部分に揺さぶりをかけた。歯を立ててしまいたいと思って、指先で静かに触れたいと思って、結局どちらも諦めた。
夜だ。部屋中ににおいも音も奪い尽くすような夜が充満している。ロスの太陽は眠っている。なにもかもは夢で、現実ではなくて、ゆるされていて、忘れられる。夜だから。
鼻先が子供の首筋に当たった。アルバの肉体をロスと隔てる一枚のあわいから、皮膚から、彼の血と肉の温度のひとかけらが漏れてくる。息を吸い込むと、石鹸と日なたのにおいがして目が眩みそうになった。
体重を支えている両腕は少しも疲れてはいない。疲れたということにしてしまえば?ここで手の力を抜いてしまえば。己のからだを支えるのをやめて、このあたたかな子供の頭を掻き抱いてしまったなら。寄せては返す素晴らしい空想を全て見なかったことにする。そうすれば夢は終わってしまうので。
ロスは一層つよく鼻先を擦り付ける。アルバが吐息と寝言の中間のような声を零す。その音が魂のどこか端の方にじわじわ沁みてくるような気がして、ロスはちいさく笑った。もっと欲しい。この子どもが目覚める寸前まで。
きっと構わない。まだ真夜中だった。