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ショットガン・ウィズアウト・マリッジ

 

 住み慣れてしまった洞窟に人の足音が響いてきたのでアルバは顔を上げる。ツヴァイではないようだがいったい誰だろう、と思ったところで見知った水色の頭が見えてきて、彼は瞬間的にパニックに陥った。時間の進み早すぎだろ宿題半分も終わってねえ。

「アルバくんこんちはー」

「うえええごめんなさいあと一時間だけ待って!サボってたわけじゃないから!!」

「あはは反応ひでー!カテキョは今日じゃないし来たのは俺だけだよ」

 猛烈な勢いでノートを捲っていたアルバはそれを聞いて手を止めた。カレンダーを確認。赤黒いマルの日付まであと一週間。クレアの背後を確認。黒い人影無し。ふえええ、と空気が抜けるような音を出しながら息をつくと安堵のあまりちょっと涙が出てきた。なんで家庭教師に心の傷を負わされてるんだろう。

「あーほんとすみません、クレアさんを見ると一緒に来る地獄先生を連想するようになっちゃってて……」

「マジかよシーたん鬼の手使えんの!?そういやカラーリングいっしょだね!」

 あっこれヤバいやつだ。

「自分で振っといてアレですけどこの話引っ張るのやめましょう本日はようこそいらっしゃいました」

「過剰反応だよーご丁寧にどうもお邪魔します」

 アルバはクレアを檻の中に招きよせた。

 

*

 

 来客用の椅子とテーブル(シオンが勝手に置いて行った)をクレアに勧めてお茶の用意をする。買い出しに行ける身分でもないため茶請けはいつも乾菓子だが、まあ無いよりはマシだろう。クレアは人を殺せそうな厚さの教科書をぱらぱらと眺めていたが、意味が分からなかったようで思いっきり欠伸をしてから元に戻した。

「シーたんが魔王さんに届け物があるとかで魔界に来たんだけどさー、『いろいろめんどいからお前は待ってろ』って言われちゃって」

「ああはい割とヤバいですよね……」

 主に顔が。千年封印されていた初代ルキメデスを見知っている魔族がどれほど居るかは知らないが、面倒事の種は蒔かないに越したことはない。

「行くあてもないからアルバくんに会いに来ちゃったわけなんだけど、迷惑だった?」

「そんなことないですよ。スパルタ教育と殴る蹴る心を折るの暴行に対応するのが精いっぱいで最近全然クレアさんと話せてなかったし」

 以前はシオンの送迎に現れるクレアと世間話くらいは出来たのだが、この頃はそんな余裕もない。家庭教師入場時は予習に必死だし退場時には心身ともに燃え尽きている。たまに物理的にも。そのことを言うと何故かクレアは目を泳がせた。

「多分アレ意図的じゃないかなー……アルバくんと俺が仲良くすんのあんまりよく思ってないっていうか」

「あ、愛されてますね……」

 親友に対する独占欲が強すぎてちょっと引いた。もしかしてこいつらデキてるんじゃ、という考えが頭を掠めたが、何かの間違いで本人に伝わったら挽肉にされそうだったのでアルバはそれを忘れることにした。眠れるドラゴンを擽るなかれ。

 あっそうだ、と言ってクレアは鞄から何かを取り出す。手に握られていたのは小さな木箱だった。

「お土産!この前西の村でお祭りやってたんだけどそこで買ったやつ」

 中には緩衝剤とともに陶器の小物入れが入っていた。複雑な文様が描かれ鮮やかに彩色されたそれは、遠い地に生きる人々の息遣いを感じさせる。アルバは喜びに声を上げた。

「うわあありがとうございます!机の上に飾っときますね!」

「いやできれば隠しといて俺の命に関わる」

「え?」

 意味が分からなかったが、クレアの醸し出す悲壮感が半端ではなかったのでアルバはとりあえず従うことにした。

 

*

 

「西の村ってあのオアシスの所にある?お祭りなんてやってたんですね」

「そうそう!あそこ交易都市じゃん?だからいろいろ珍しい出店とかあんの」

 めっちゃ辛い焼肉とか見たこともない果物の糖蜜漬けとか、あとさっきみたいな工芸品とか!外に出られないアルバにできる限り祭りの情景を伝えようとクレアは言葉を連ねていく。彼が目を輝かせて聞いてくれるものだから思わず張り切ってしまい、口の中が乾くまで喋り倒してしまった。ぬるんできた茶を啜って一息吐き「可愛い女の子もたくさんいたよー」と付け加えたところ、アルバが反応した。

「そういえばクレアさんはお嫁さん探してるんですよね。見つかりそうですか?」

「よくぞ聞いてくれました!」

 クレアは思いっきり胸を張る。

「ついに文通まで進展した子が一人!」

「ぶ、文通が、ひとり……」

「シーたんが俺の筆跡完全にコピーしてヤバい感じのポエム送りつけちゃうもんだからどうなることかと思ったけどギリセーフだったぜ!」

「中学生のいじめ!?」

 相手からよく分からない気遣い満載の手紙を貰って事態を理解したクレアは、いろんなところから変な汗が出て止まらなくなった。送り返してもらった偽装私文書を確認したら今度は涙が止まらくなった。何なんだよ魂ミキサーって。クレアの魂を粉砕するつもりだったに違いない。

「そういえば、なんで俺がお嫁さん探してるって知ってんの?俺アルバくんに言ったっけ?」

「あーそれはその……」

 旅の目的を隠しているわけではないが触れ回った覚えもない。そういう夢のある話をするとうちのサディストがいい笑顔で心を切り刻んでくるからだ。

 言いよどむアルバを見て、クレアはある可能性に思い至った。

「あーわかった!オリジニアのじいさんと枕を共にしてズンドコベロンチョしたときに見たのか!」

「擬音やめて!心の傷抉らないでください!」

「シーたんが爆笑しながら教えてくれたんだけどさあ。『オケ専かよwwwオケラ野郎だけにwwwww』って言って一通り悶絶した後突然真顔になってアルバくんの顔写真張った藁人形引っ掴んで夜の森に消えた」

「意味が分からな……ってボク呪われてたの!?なんで!?」

 嫉妬です。醜いですね。

「気になって後追ったら一番太い木の前に立って藁人形の胸のとこにひたすら金槌打ち付けてた。釘とか無しでがっつんがっつんと」

「アバラ壊しにかかってる!」

「ちなみに話聞いたのが1週間前で昨日の晩に至るまで藁人形は続いてるよ!ドンマイ!」

「えっうそ現在形の危機!?」

 アルバは胸を押さえてへなへなと蹲った。呪い返しの準備とかさせてあげた方がいいのだろうか。

 

*

 

 アルバのリカバリーは早く、全力で呪われているのを知ってから僅か数分後にはクッキーを齧り始めていた。シオンを一年以上相手にしてきただけのことはあって流石に訓練されている。

「ところで文通のお相手ってどんな人なんですか?キレイ系?可愛い系?」

「やけに食いつくね。あれか!発情期!」

「ボク人類ですよ!?」

「『あの人はうどんとケダモノのハーフだから発情期が来るし叩きつけるとコシが出る』ってまたシーたん情報が」

「その短いセンテンスに幾つの嘘が……。いやあの、単純に興味あるだけなんですよ。ボク彼女とか出来たこともないまま牢屋に入っちゃったし」

「清い体のまま生涯を終えそうなの?」

「その表現やめて!」

「これ以上どんな魔法使いになろうって言うんだアルバくん!?」

「なりたくねーよ!!」

 涙目だった。なんというか、この子いじめられてるとき凄く輝いてる。クレアは一瞬ダークサイドに落ちかけたが道徳心と(親友に対する)恐怖心によってなんとか我に返った。

「じゃあ月刊アルバのファンレターとかは?女の子から来ないの?」

「昔は来てたんですけど最近は全然です。やっぱ牢の中で黙ってるとみんなに忘れられるんですかね……」

 定期的に通ってて手紙も頻繁に送っているのに意識すらされていない親友がちょっと哀れになってきた。この子が魔法使いになるのとシオンが告白するのとどっちが早いんだろうと思い、クレアは天井を仰いだ。

 

*

 

「文通相手はメリッサちゃんて言う名前の子だよー。茶色い髪に緑の目の、どっちかっていうと可愛い系かな!例のお祭りときに会って仲良くなったの」

 アルバは滅茶苦茶真剣に聞いている。相槌の熱の籠り方が凄くてクレアは若干怯えた。

「クレアさんは、その、メリッサちゃんのどんなところが気に入ったんですか?」

「あの子すげー優しいんだよ!外れた顎戻してくれるし打ち身に湿布張ってくれるし腫れ上がった顔面冷やしてくれるし」

「満身創痍!?どんだけお祭りで破目外したらそうなるんです!?」

「テンション上がってお立ち台からバック宙で飛び降りたら思いっきり着地失敗してさー」

 ちなみに顎はシオンに外された。痛い痛いと喚くのがうるさかったらしい。

「……あの、お疲れ様でした」

「今は平気だよ!ところでさーそういうこと聞いてくるアルバくんはどんな子がタイプなの?やっぱアラウンド棺桶?それとも幼女?」

「なんで選択肢が極端から極端なんです!?」

 浮いた話の相手が10歳とじじいだけなんだから仕方ない。運命の嫌がらせを疑うくらい適切な年齢の女子との交流が少ない子だった。

「えっとボクはですねー、年上の綺麗な人がいいです。リードしてくれて何でも出来そうな雰囲気なんだけど、どっか支えてあげなきゃ!って感じがする人。あとやっぱりボクのことを好きになってくれる人が一番ですよね」

「清い体の割に注文多いんだね」

「グサッときた!」

 年上、キレイ系、リードしてくれる(物理)、何でもできる(物理)、意外と打たれ弱い、そしてアルバにベタ惚れ。何しでかすかわからないレベルでベタ惚れ。なんだ箇条書きマジックパワーでシーたんイケそうじゃね!?

「……とにかく、そういう女の人と幸せな家庭を築きたいんです」

 駄目だあいつ男だった。

「ところでシオンはどうなんですか?なんか浮いた話とか」

 新手の精神攻撃にクレアは怯む。ここで答えを間違えたらシオンに生きたまま焼かれるに違いない。自分が運命の境目に立っていることを感じ手汗が噴き出してきた。

「えーっと……いやあの、シーたんずっと好きな子いるらしいし」

「えっ嘘そうだったんですか!?あいつおくびにも出さないから気付かなかった……」

 お前だよ!ダダ漏れだし君以外の関係者全員気付いてるよ!とは言えなかった。

「シオンも結婚とかするのかなー。それまでには流石にここ出ないとなあ」

 結婚式となったら会場設営もあるし飾りつけとか人の手配とか……料理にウェルカムボードにライスシャワーも準備してって考えると凄くやること多いですね!とアルバはやけに具体的な計画を立て始めたが、それ全部裏方の仕事じゃないんだろうか。シオンを祝いたい気持ちはひしひしと伝わってくるし健気だとは思う。だが猛烈な勢いですれ違っている。

「結婚って素敵ですよねー。これからずっと一緒に居よう、辛いことがあっても嫌いになりそうになっても支え合おうって約束して、家族になるんですよ。好きな人と好きな人の子供が傍にいてくれたら、生きてるときも死ぬときもきっと幸せなんでしょうね」

 とてもきれいな顔でアルバは笑った。

「だからシオンにもそういう人がいたらいいなと思ってたんですけど……なんだよ水臭いなあもう」

 この子は本当にシオンのことが好きなのだ。なのになぜうまくいかないのだろう。

「……片思いらしいよ。もう何年にもなるって言うのに」

「片思い!?もし振られでもしたら誘拐監禁洗脳までやらかしそうなあの男が!?」

「アルバくん……シーたん意外と純情なんだからやめてやれよ……」

 優しい子だ。でもとんでもなく酷い子だ。何が必要なのかは理解しているくせに誰を欲しているのかはまるで気付いていない。――シーたんご愁傷様。

「誰がなにでどう純情だって?」

 振り向くと、檻の前に闇よりの使者が立っていた。

 

*

 

「ししししシーたんお使い終わったの!?」

「だいぶ前に」

「いつから居たんだよ!気配消すなよ怖いから!」

「あんたらが鈍いだけでしょうが愚図山愚図男め」

 シオンはそう言ってからお手本のようなポーズで振りかぶり、何かを投げた。アルバのアバラに向かって。クリーンヒット!

「いってえええ!ってこれなに箱?また箱?」

「また?」

「なんでもないよねアルバくん!」

「うるせえ床でも舐めてろ」

 アルバが箱を開けると、中からはきらきらと光るものが現れた。

「指輪?」

「魔法補助具。予め魔力を込めておくことで魔法の展開を瞬間的に行えるようになります。まあ安物だから効果のほどは推して知るべしって感じですけど」

 赤い石が三つ嵌った指輪を明かりにかざし矯めつ眇めつしていたアルバだったが、やがて何かに思い至ったようでぱあっと破顔する。

「もしかしてお土産?ありがとな、すっごい嬉しいよ!」

 それを聞いたシオンは固まり、顔を赤くし、何か呟いて俯いたが、肝心のアルバは指輪に夢中でそれを見ていない。元の状態を取り繕うまでに5秒と掛からなかった親友を見ておまえほんと駄目な方向に頑張るよなあとクレアはため息を吐いた。

「……安物っつってもあなたの命の値段よりは高いので壊したら死で以て償ってくださいね」

「怖っ!」

 どういたしましてくらい聞こえるように言っとけよ。

 

*

 

 洞窟に二人分の足音が響く。アルバと別れ、二人はルキの待つ洞窟の入り口を目指し歩いていた。牢屋が見えない位置まで来るとクレアはにやにやしながらシオンを小突いた。

「シーたん指輪とかやるじゃん!もうひと押しもうひと押しー」

「クレア」

「アルバくんと久々に話したけどあの子ほんとお前のこと好きなー。うまくいかないのが不思議なくらいだわ」

「なあクレア」

 クレアの首根っこが凄い力で掴まれる。嫌な予感に震えながら目を合わせると、案の定親友は悪鬼のような笑顔を浮かべていた。やばい調子に乗り過ぎた!

「お前が寝てる千年の間に文明は進歩し銃と言う武器が誕生した」

「えっうん知ってるシーたんが持ってるそれショットガンっていうんだよね」

「刺殺と撲殺と射殺どれがいい」

「選択肢増えた!?」

「わかった蜂の巣な!」

「あああああああ!!」

 かがくのちからってすげー。結婚するまでは死にたくないクレアは、本能的にジグザグに動きつつゴールまで全力疾走した。

 

 

***

 

 

「あれっ月刊アルバのファンレターコーナーなくなってる?」

「だいぶ前からだぞそれ。編集部に圧力かけて潰した」

「シーたんなにしてんの!?」

1000気圧くらいガっと」

「物理!?」

「あの人のクソ汚い字で返信貰うお子さんがあまりに可哀想でついつい」

「その行動力を本人に向けろよ……」

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