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ちゃーんっちゃちゃっちゃっちゃっちゃっちゃーん。
何やら素敵な感じのファンファーレが鳴って、満身創痍でゴミクズみたいに倒れているアルバが少しだけ身じろいだ。今日も今日とてメタいなあとちょっぴり感動しつつ、ルキは彼の元に歩み寄る。薬草はこれで打ち止め。街までは割と距離があるので、無事辿り着けるかどうか多少不安だった。
「レベルアップおめでと、アルバさん」
「いでで……ありがとう」
エグい味の草を飲み下し、アルバが上体を起こした。顔を顰めながら咳き込むが、動ける程度には回復したらしい。物資が尽きた旨伝えると、あっちゃあ、と危機感があるんだか無いんだか微妙な声を上げて頭を搔いた。この人やっぱり駄目かもしれない。
「この辺のモンスター結構素早いから、逃げ切るのも一苦労だよね。どうしても駄目そうなら勝手にゲート使っちゃうよ」
「ううーん背に腹って言うか肋骨に命は代えられないけども……ってちょっと待って、そうだ」
もう食料と砥石くらいしか入っていない筈の鞄がごそごそとかき回され、続いて内ポケットのジッパーが開く音がした。少女は瞬きをする。
何が出てくるのだろう?存在は知っていたけれど、実際に開けたことはない場所だった。好奇心のまま見つめていたら、ワインレッドとクリーム色のどこかで見たような長方形が取り出されたのだった。
「……ファミコンのコントローラー?懐かしいなあ」
「懐かしいってルキちゃん君10歳だよね?」
「MMOに転向しちゃったけどやっぱりドラクエは3が至高かな」
「三代目魔王が何言ってんの!?」
ぼろぼろの掌がどこにも繋がらないコントローラーを握り、セレクトボタンが押しこまれる。ぴっ、という電子音が響き、ルキは目を瞠った。
ステータス画面が現れた。
白いフレームに灰色地のテーブルが組まれ、半透明に向こう側の景色を透かしながら宙に浮いている。左の小さな枠には「アルバ」「ルキ」の名前が縦に並んでおり、寄り添うように並べられた右側の正方形に、選択されたキャラクターの詳細ステータスが表示されている。要するにRPGでお馴染みのアレ。
なまえ:アルバ、しょくぎょう:勇者、しょうごう:レッドフォックス、あとは装備品にレベルにHPにMPにこうげきぼうぎょとよく聞く能力値と、下の方には何故かおどろおどろしい髑髏のマーク。やったぁすばやさとうんのよさが3ずつ上がってるから多分逃げられると思うよ、と脳味噌空っぽの赤い狐は無邪気に喜んでいるが、これがそうまで軽く扱っていいものではないというのは明らかだった。
持ち主の素養を細かに把握・分析し、数値に落とし込んで表示するという一連の操作は間違いなく魔法の領域に属する。それも、かなり高度な部類の。懐かしコントローラーの形をした魔法具は買えば相当な高値が付くだろうし、そもそも人間と魔族を合わせたところで製作出来る者自体が少ないだろう。端的に言って、このへっぽこにはあまりに不釣り合いなのだ。
どこでそんなもの手に入れたの、と問えば、呪われた勇者は苦笑いを浮かべた。
「ロスが寄越したんだよ。くれたというか、嫌がらせの副産物というか」
アルバはふらふらと立ち上がる。その拍子に、生えたばかりの尻尾が揺れた。