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目が覚めるとそこにいた。
「――であるから、諸君らには千年前の勇者クレアシオンの名に恥じぬ活躍を期待している!」
馬鹿馬鹿しいほど長い上に中身のない話を終え、王冠を被った老人は満足そうに息を吐く。やかましい拍手の音で現実が輪郭を取り戻してゆく。千年振りにこちらの世界に放り出され、魔王復活の噂を聞きつけ王宮戦士として潜り込みと慌ただしく動き回ってきた疲れが出たせいか、立ったまま転寝していたらしい。手を叩く振りをして後頭部を引っぱたくと、ロスの隣に立つ子どもは小さく痛みを訴えた。楽しかった。
「うっわすっごい!なあロス、凄い景色だよね」
「来るときも見たでしょうが」
「でもこっちから見た方がさ、なんていうかこうバーッて」
「ボキャ貧ですね」
「グサッときた……」
傷ついた声を鼻で笑い、戦士のロスは歩き出した。アルバも慌ててその背を追い、城は遠ざかって行く。小高い丘の上からは、なだらかな傾斜を描く並木道を一望することが出来た。石畳の両脇に植えられた桜の木々は今を盛りに花を咲かせ、時に花びらを春風に手渡しながら、柔らかな陽光をも味方につけて一面を桃色に染め上げていた。
またはしゃぎ始めたアルバを揶揄交じりに諌め、ついでとばかりに大して怖くもない怪談を囁く。満開の桜の木の下には屍体が埋まっているそうですよ。馬鹿な子どもは面白いほどに顔を青くした。
「し、屍体って、誰の」
「さあ?身元不明が怖いならはっきりしてるの一つ増やしますか」
「ボクは埋まらないからな!?」
「遠慮しなくていいんですよ」
「真っ向からの拒否だよ!初対面なのにガンガン来るなお前!!」
「いやあなんか初めて会った気がしなくて。前世で奴隷と農場主だったんじゃないですか」
「対等な関係築こうよ!」
並木道を、桜の雨を、思い出されることのない月日を通り過ぎ、二人は並んで歩き出した。
そして、物語が始まる。
世界に意味が与えられ、別れと再会と決着が続く。起こるべきであった全てが起こり、流された血と涙に報いが齎される。
木々の根の下では千年分の無意味が死んでいた。少年と青年の姿をしたそれは何も起こらなかったが故に決して語られることはなく、あらゆる人々に忘れられたまま悼まれもせずに横たわっている。
彼らはやがて土に還り、大輪の花の礎となる。
それを運命と呼ぶ者もいるのだろう。