101号室 あなたをコンティニュー1 忍者ブログ

101号室

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あなたをコンティニュー1

 

「早く逃げて!煙は上にのぼるから低い姿勢で行くんだよ!」

「えっ、でも……」

「ボクは大丈夫だから!」

 腹這いで倒れるボクに不安げな視線を向けながらも、煤塗れの女の子は出口の方へと走って行った。燃え盛る家はごうごうめきめきめりめりと思いつく限りの嫌な音を立てていて、華麗に勇者したボクは端的に言って絶体絶命だった。取り残された少女を救出したはいいが落ちてきた梁に右脚を挟まれどう足掻いても抜け出せなくなっている。というかぶっとい木材は気前よく炎上し続けてるものだからめっちゃ痛い上にめっちゃ熱くてそろそろ発狂しそうだった。カッコつけスキルがもう少し低かったらあの子の前で泣き叫んでいたかもしれない。焦げ臭さの中に蛋白質が焼ける臭いが混ざり場違いにもお腹が減ってしまった。もうやだ助けて!

 首を捻ってヤバいことになっているであろう脚部をちらりと見る。うん案の定ヤバいことになっていた。グロ注意っていうかグロテスク元帥くらいのアレっぷりで詳細な描写は避けるけれどとりあえず酷い。梁は太く、うつ伏せの体勢ではとてもじゃないけど動かせないしぶった切れない。仕方ないので最後の手段に頼ることにした。

 剣を抜き放つ。深呼吸。

 そして、刀身を勢いよく脇腹に突き立てた。

 入る感触とごりごりぶづりと出る感触とぐっちゃぐちゃになりそうな痛みとボクの絶叫。

 暗転。

 

 目覚めると視界は灰色でいっぱいで、慌ててボクは身を起こした。燃える梁から脱出したのに煙にまかれて御陀仏じゃあ笑い話にしても目が痛くて泣けてくる。

 炎を映して輝く剣に曇りがないのを確認し、鞘に戻す。それからボクも出口へと急いだ。ほっといたら焼け落ちて出られなくなって勇者の蒸し焼きフルコースだ。

 

*

 

 小屋から出て数歩のところでさっきの子が立ち尽くしていた。どうしたの、と声をかけようとして彼女の視線を辿りボクも思わず固まった。赤くてもさもさしたでかい鳥がとってもヤな感じの流し目でこっちをガン見していたのだ。

 火喰い鳥。この小さな村を群れで襲撃し、炎の海に変えた魔物だ。村の人の救助がてら駆除して回ってはいたんだけどまだ生き残りがいたらしい。しかも大きさを見るにこいつどうもボスっぽい気がする。群れを壊滅させられた恨みがオーラとなって見えるようだった。鳥類のくせに息子をいじめ自殺に追い込まれた母親みたいな顔をしてるのがよく分かるおいおいヤバいんじゃないのこれ!?

 耳を劈く甲高い鳴き声、その後の突然の静寂。少女を抱いて飛び退くと、一瞬前までボクらがいたところを巨大な炎の舌が舐めつくしていた。冷や汗が背を伝う。

 このバケモノ鳥はドラゴン類と同じく胃の横だかに火炎袋を持っていて、短く息を吸い込む予備動作を認識できれば即座の火だるまは回避できる。けれどこの個体は炎の出力が他より数段上だった。ボクたちの代わりに直撃を受けた小屋の残骸は哀れにも崩れ落ち、完全に原型を失ってしまった。

 少女は腕の中で震えている。ボクだって怖い。

 だけどここにいるのは勇者で、友達を助けるまでは絶対に挫けないと決めたアルバだ。逃げ出すような弱虫野郎はもういない。だからコマンドに「にげる」なんてないんだよ!

「こっちだ!」

 女の子を置いて、ボクは横に走る。火喰い鳥のぎらつく目を真っ向から見返し胸部が膨らむのを確認し避けて躱して服を焦がされ接近し跳んで斬りつける!ボクの頭の上あたりでゆるく羽ばたきながら滞空していた怪鳥は、羽の付け根から血を流して絶叫した。切り落とせなかったがダメージは大きいようだ、もう一撃入れれば叩き落せる!意気込んで剣を構え直した瞬間、頭部に重い衝撃を感じた。滅茶苦茶に暴れ出した火喰い鳥に翼でぶん殴られたのだと気付くまでに一秒。脳震盪を起こした体は火炎放射の前兆を捉えたとしても動けなかった。

 おお勇者よ死んでしまうとは情けない!

 

 黒焦げの死体に一瞥だけくれて、巨大な炎の鳥はもう一匹の獲物に視線をずらした。柔らかそうな子どもは恐怖に息を飲むが、足がすくんで動けない。少しふらつきながらもじわじわと距離を詰め――

 

 少女に襲い掛かろうとする鳥の翼を、ボクは今度こそ切り落とした。

 訳も分からず落下していく敵の喉を掻き切る。返り血、喘鳴、送還の光。そしてボクは振り返る。

「お、にいちゃ……」

「大丈夫!あれ死んだふりの魔法だから」

「そ、そうなの……?」

 怯えた目でしゃがみこむ少女に駆け寄り、手を取って抱き上げた。嘘も方便でしない善よりする偽善、少女の心は飴細工らしいからそういうことにしておこう。というかしておきたい。ボクにだって意味が分からないし死亡からの復活からの奇襲が現時点で最強の戦法って言うあたり人としてどうなんだと思う。しかしながら手段を選んでいる余裕はないのだから使えるものはタマでも使え、なんか副作用とかありそうで怖いけどまあ生き返るんだからいいだろう。うん。最初のうちはめのまえがまっくらになる感じにびっくりしたが、十回死んだら何となく慣れたし二十回死んだら平気になった。今ではご飯食べながらでも一連の動作をこなせるという無意味な自信があったりする。

 死んだら全回復して蘇る、通称デスベホマ。単に傷が治っているというのではなくどうやら時間を巻き戻しているようで、落ちてきた梁が外れていたり燃え尽きたはずの服が無傷だったりと色々な意味で便利だった。全裸じゃないから恥ずかしくないし捕まらない。

 この奇妙な事態の最初の一回は、まだ旅の仲間が三人揃っていたあの時のことだった。ボクが真っ二つになり、彼が魔法を使い、三人が二人になってしまった日。生きていることの素晴らしさと何もできないことの絶望を同時に思い知ることになった。ボクはあれから半年以上ロスを探し続けていて、彼のために何度も何度も死んでいて、その度にゾンビもびっくりの新鮮さで息を吹き返している。何か呪いみたいだなあとたまに思ったりもする。原理は全く分からないが、恐らくこれはロスの置き土産なのではないだろうか。繋がっていることが嬉しくないって言ったら嘘になるけど、そこまで心配なら置いてくなって話だ。ロスのことを考える度、何故か頭がぐちゃぐちゃになる。とにかく彼にもう一度出会って、クレアシオンの物語にハッピーエンドを叩きつけてやりたかった。その為だったら百回死ぬことも百回生き返ることも本物の勇者になることも、きっと何だってできると思った。

 ボクは少女を抱く力を強め、燃える村を後にする。一日で二回死ぬのは新記録だった。ルキにバレたら間違いなく怒られるけど、まあ、結果良ければ全てよしだ。

 勇者アルバの旅は続く!

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