101号室 この戦士は呪われている!! 2 忍者ブログ

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この戦士は呪われている!! 2

 

 限界だった。

 どんどこどんどこと異国情緒を漂わせた太鼓の音が響き、地上では鳥っぽい奇妙な仮面を着けた腰蓑集団が何かよく分からないけどよくない感じの呪文を口にしつつ踊り狂っている。それを見降ろすアルバはと言えば、十字架に括られた状態で火にくべられていた。

「ベンチャドショットヘーゼ!ルナッツバニィラ、アマンドキャラメルーエ!!キストラホッイプ、キャラメ!?」

 腰蓑の中でも一際羽根飾りの多いおっさんが突然叫び始めた。勿論全く意味が分からない。

「只今より生贄の儀を執り行う、この者を太陽神の供物とすることに異論は無いか、だそうですよ勇者さん!」

「翻訳より先にやるべきことあるんじゃないかなぁ!?」

「すみませんガソリン切れちゃってて」

「火勢強くしろとは言ってない!!」

 戦士は少しばかり離れたところで目をきらきらさせていた。旅に出て数か月、当初の無口系無愛想キャラはどこに行ったやら、すっかり活気を漲らせ生き生きとし始めたのはとても素晴らしいことだとは思うがお陰様でアルバの心身は逝き逝き一直線だった。この男のせいで何度死を見たことだろう。回想モードに入って三秒でお腹が痛くなってきた。

 やだー助けて死んじゃうよぉと叫び続けていると、舌打ちがひとつ聞こえた。よっこいしょ、と大儀そうに立ち上がる青年の手の中には、何故か筒。

「え、あの、」

 アルバの戸惑いも無視して、戦士は木製の円筒に唇を近づける。そして、吹いた。

 ひゅんひゅんひゅんと金属の輝きが三つ連なって飛び、快い音と共に十字架の上へと突き立つ。それぞれの吹き矢は、アルバの両手と脚を縛り付けるロープを正確に切断してのけたのだった。

 遠く見える戦士のガッツポーズ。イケメンは何しても様になって羨ましいなあという脳味噌の混乱した感想に続き、解放感がアルバを包んだ。

 ……解放感?

「ああああああ畜生ふざけんな馬鹿野郎!!」

 アルバの体は木製の十字架に括りつけられることで固定されており、下では炎が煌々と燃え盛っていて、戒めから解放されたということは即ち重力に引かれ始めるということだった。恐怖に喉奥が引き攣る。落下しきる寸前に十字架を蹴って全力で前に跳び、ギリギリで火の勢力範囲から脱出した。着地には見事に失敗したため、石造りの祭壇をごろごろ転げ落ちて色んなところをあらゆる角度から強打。痛い。とても痛い。

 悶絶している暇も無かった。多分捕まえろとか殺せとかそんな類の声を上げつつ迫ってくる蛮族に追われ、森の中へと逃げ込んだ。時々後方から飛んでくる石槍を躱しつつひた走る。死にたくなかった。

 何とか追っ手を撒いたときには日はとっぷりと暮れ、狼の遠吠え響き渡る森でアルバはひとり突っ伏していた。この状況が非常にヤバいということはよくよく分かっていたものの、骨も筋肉もぎしぎしと軋んで指先すら思うように動かない。冷えた夜気が鼻の奥に流れ込み、それに押し出されるようにしてぼろぼろと涙が零れ始めた。

 戦士、と呼びそうになって、口を噤む。こんなどうしようもない事態になったのはそもそもあの男のせいなのだ。彼がアルバに取らせた妙なポーズ(パンを尻にはさみ右手の指を鼻の穴に入れ左手でボクシングをしながら「いのちをだいじに」と叫ぶ、というもの。攻撃力が上がるおまじないと教えられたが、今考えると明らかに嘘だった)がこの地方では犠牲の仔羊を表しているとかなんとかで、その姿を目にした現地のモンスターさんがいきなり熱狂してしまったのだ。運ばれ縛られ捧げられるアルバを、戦士はとてもいい笑顔で見送っていた。間違いなく全部理解している顔だった。

 死の恐怖に晒されるのはこれが初めてではなかった。アルバの何が気に食わないのかは知らないが、戦士は日に一回以上の頻度で死ぬギリギリくらいの嫌がらせを仕掛けてくる。今日が生贄なら昨日は鍋とネズミ――まで思い出して、そこで頭がストップをかけた。これ以上は精神が壊れるというサインである。

 惨めさに胸の内を食われながら、ぼんやりと夜空を見上げる。滲む視界の天辺で赤い星が輝いていた。それがまた誰かの瞳と重なってしまい、胃がしくしくと痛み始めた。

 最近はいつもこんな感じだった。ストレス性か食事に盛られた毒によるものなのかは判然としないが、どちらにしろ原因はひとりの男に違いない。ここまで嫌われるようなことはした覚えがないのだけれど、何が悪かったのだろう。もう無理。本当に心の底から限界だった。

「解任してやる……」

 震える声の呟きは、木々のあわいに溶けて消えた。

 数分後、どこからともなく現れた戦士に蹴り飛ばされるまで、アルバはえぐえぐと泣き続けていた。

 

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