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びりびり、ばりり、ぎじりりり、毎度のことながらなかなか酷い音がする。
人の服を素手で引き裂いて行く器物破損犯はいつも通りとてもいい笑顔を浮かべており、その表情に色々と揺さぶりを掛けられてしまっているアルバは勝手に脳味噌を煮やして勝手に自爆しどうしようも無い感じに赤面した。内心を読み取られまいと顔を背けてはみたものの、肩を押さえるように圧し掛かられた体勢ではほぼ意味のない抵抗である。
案の定、失笑の吐息が漏れ聞こえた。
「茹でダコみたいになってますよ。三割増しで不細工です」
「その不細工の服を毎度毎度ビリビリに破るお前は、一体、何なんだよ……!」
「エンゲル係数下げてあげようと思って」
ふざけんな馬鹿、と上擦る声で抗議すれば、また低い笑い声。冗談に決まってるじゃないですか。囚人服の襟ぐりに手を突っ込んだ男はボロボロの右肩を引っ掴み、思いっきり引っ張った。細やかな断末魔が上がり、剥き出しになった腋が外気の寒さに晒された。改造は実に劇的であり、ビフォーの長袖ボーダーは今やノースリーブを一足飛びに追い抜いて片乳丸出しの古代人スタイルまでアフターしてしまった。けれどシオンはまだ満足がいかないようで、今度は左半身もズタズタにしようと力を入れている。
「……ほんとになんなの」
強姦ごっこでもしたいのだろうか、とアルバは内心首を捻り、二秒後に自分で否定した。前戯とも呼べない奇妙な行動は既に三回を数えているが、衣服を破壊し終えた後はそれなりに優しくして貰える。別にこちらに不満があるとかサドっ気が暴走したとかそういうことでもないらしい。それなら、何故。何が目的なんだろう。ベッドの脇、剥き出しの岩壁を眺めながら思考に沈み込んでいたら、唐突にちくりと痛みを感じた。視線を戻すと黒い頭があった。顔は胸の辺りに埋められており、熱くて柔らかいもの、恐らくは舌の感触によって鎖骨を噛まれたことを悟った。
「意味不明なタイミングで物思いに耽るのやめてもらえます?頭空っぽのくせして」
「誰のせいだよ」
皮膚に押し付けられる湿ったものが先端から全体にまで面積を広げ、舐り取るような動きでアルバの表面を撫でる。ひ、と喉の奥から声が出て、一気に血が上ってもう碌に考えることも出来なくなった。小刻みに震える身体に気を良くしたのか、シオンは顔を上げもしないまま過去形の衣類を更に痛めつけていく。心臓の上に吸い付かれ、一際大きく情けない声が漏れた。
「やだ、それやめ、や、」
「腰揺れてますけど」
指摘する声音はあくまで楽し気だったが、そちらにも既にのっぴきならない熱が籠っている。男の腕がそこだけ独立した意思を持っているように動き、またアルバの袖を引き千切った。そして漸く下衣へと手を伸ばす。酷く張りつめている場所を僅かに掠める動きは緩慢に過ぎて、アルバはいっそ縋りついて解放を乞いたいとすら思った。
涙の混じった視線を受け流し、シオンは出来の悪い生徒に言い聞かす。歌うように優しく、或いは悪魔が囁くようにして。
答え合わせです。裸で洞窟の外まで走って行くとかありえないですよね。いくらあなたが前科持ちのクソ虫とは言え。音量を増していく自分の嬌声にかき消されそうになりながらも、アルバは辛うじて言葉の群れを聞き取った。
「逃げられない理由とか、あった方いいでしょう」
膝頭でそこをぐりりと押され、目の前が白く白く弾けてまた泣いた。
そんなもの最初から必要ないというのは、悔しいので教えてやらない。