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「馬鹿、間抜け、へたれ、愚図、」
「ひあぁ、やっ、やあぁあ!んぅう、ああぁああ」
ごりごりと前立腺を責め立てられて、アルバは只管に喘ぐしかなかった。頭の奥の深いところからどろどろに溶けて、全部気持ちいい液体に変わっていってしまっているようだった。流れたもの、きっと涙か何かで視界はぐちゃぐちゃで、圧し掛かるロスが愉しそうに笑っていることくらいしかもう分からない。おかしくなってしまっていた。凄く気持ちよくて、気持ちよくて、気持ちよくて、気持ちよかった。
「役立たず、阿呆、非力、不細工、」
その言葉に続いて、奥への突き上げ。血のような目がぎらぎらしている。アルバはその赤ばかりを気にしていた。何かよくないことを企んでいるに違いなかった。
少し前までは何度も何度も赦しを請うまで焦らし続け、泣き叫んでも一番いいところは弄ってくれなかった男が、ここの所はずっとこの調子なのだ。ず、と中が擦れるのが聞こえる気がした。その震えは背筋に響いて、脊髄を伝いながらぶるぶると駆け上ってくる。よくない衝動はとても脆い結合によって組み立てられており、太い神経を進むごとにぼろりと崩れ、落とされた一部はインクが染みだすようにしてアルバの全身へと溶けていく。指の先までがロスに侵されていた。もう限界だと、これ以上は駄目だと最後に残ったまともなアルバが叫んでいるのに大部分のよくないアルバはそんなことを気にした素振りも見せないで、与えられる暴力的なまでの快感に声を上げて悦びながら、もっともっとと自分から腰を振りたくっている。
青年が息を詰めるのが聞こえた。来る、と思った。口の中に湧いた涎が零れ落ち、次の次の次くらいの瞬間を思うと、それだけで後孔はまた突き込まれたものにしゃぶりついた。気持ちよくて死にそうで、強請るような喘ぎが上がった。
「クソ虫」と罵る声が聞こえた。その低い音まで鼓膜と脳味噌の間の狭い部分が細工してしまって、要するにまたよくなってしまって、アルバの内部は痙攣を強くする。張りつめた陰茎の形が排泄器官の浅いところに刻み込まれて、馬鹿みたいな充足感、一瞬ひどく幸せになってから、空白、そして粘度の高い液体が注ぎ込まれる。
「うぁー、ああぁう、や、ああぁあ、なか、ぁ」
「ゴミ山、畜生、スカポンタン、アバラマン、甲斐性、無し、ぃ、」
内部を汚される感覚に悶えていると、自分の腹の上にぬるいものが散ったのを感じた。また射精してしまったのだった。荒くなる呼吸が、吸い込むタイミングで脳味噌を揺らし、吐き出すタイミングで思考を散らした。ロスが並べる罵詈雑言は右の耳から入って透明に積み重なり、左の耳からはその絞りかすが零れ落ちていく。
こいつは何がしたいんだろう。もう数度目になるが、その度にアルバは不思議に思う。キーワードみたいな罵倒をどれだけ並べたって、その後で中をぐちゃぐちゃにされて突き上げられてしまったら、アルバは悦ぶに決まっているのに。
ロスが身じろぐと、後孔に注がれたものが掻き回されて、にちゅりと水っぽい音がした。アルバの呼吸音に母音が混じる。瞬きをしたら目尻に溜まっていた涙が溢れた。白い顔が近づいてきて、べろりと滴を舐め取られる。舌は柔らかくて熱かった。ロスの頭を搔き抱き、アルバは呼吸を整える。
「マゾ野郎、低能、ロリ、コン、」
「お前も、ぅあ、落ち着け、よぉ、っ!」
射精後の脱力感に絡め取られているだろうに、ロスはそれでもアルバを罵り続けた。悲しいことに日常的に耳にする言葉であって、とうの昔に聞きなれている。今更落ち込んだりなど出来はしない。耳元の唇が一度動きを止め、そして、アルバの耳朶を噛んだ。突然のことに驚いて、息を飲んで、声が漏れて、後ろが締まって、また目の前の彩度が上がり始める。ロスが笑う気配があった。咎めることも出来ないまま、アルバの呼吸は揃わなくなっていく。犬みたいですね。声。ぞくぞくする。意味を成さない喃語がばらばらと散っていく。
「古典的条件付けって、聞いたことありますか」
「なに、ぃ、それ」
咥え込んだままのものはだんだんと硬度を取り戻していて、アルバの内側をその形に作り変えてしまうくせしてロスは全然動いてくれない。じわじわと追い立てるようなもどかしさばかり募っていった。火を付けたら燃え上るどころか爆発してしまう類のものだ。手遅れになる前に自分で何とかしてしまいたかったけれど、肩を押さえられているということはまだ動くなと言われているも同じだった。逆らったらどうなるのかは分からない。碌な結果ではないのは間違いなかったが。
何でもいいから早く欲しかった。ちょうだい、お願い、もっとめちゃめちゃに抉って。普段ならどれだけ脅しつけられても絶対言わないような馬鹿みたいな言葉の群れが、もう喉の先っちょまで上って来ていた。けれど、それがきちんと形を成して外側に零れ落ちる前に、またちいさな笑い声が降って来たのだった。
「パブロフの犬の作り方です。ベルを鳴らして、餌をやって、そのうち犬はベルが鳴るだけで涎を垂らすようになる。何処かの誰かみたいに」
「は……?」
「まだ分からないんですか。もう手遅れだと思いますけど」
ロスが身を起こす。相変わらず彼はにやにや笑っていた。何かを期待するように、いっそ好奇心さえ覗かせて。この男は何をしたというのだろう。自分は、何をされたのか。酸欠のようにぐらつく頭がやっと彼の言葉を反芻し終えて、ひとつ、とても恐ろしい答えを弾き出した。恐怖を浮かべたアルバに口づけを落とし、ロスは死刑宣告を始める。もちろん主文は後回しにして。
「ベルを鳴らしながら、いっぱいご褒美あげましたよね。ちゃんと条件付け出来てるかどうか、試してみましょうか」
ぐちゃぐちゃにして、気持ちよくして、ひどい声であんあん喘がせる前に、ロスはアルバを罵倒した。何度も何度も、日常的に耳にする言葉で以て。悲しいことに。とても、恐ろしいことに。
「やだ、やだそんなの、やだ、ぁああ、ひぁ」
犬じゃないんだから出来る訳がない、そう必死に言い聞かせるけれど、抗いきれないことは分かっていた。神経を浸す声は暗示を含んだ熱毒だ。呪いが呪いとして成立しうるのは、対象が呪われたことを気取るから。
どうなってしまうんだろう。もしかしてこれから、こいつに罵られる度に気持ちよくなって、地面にへたり込んで泣きながらオナニーすることになるんだろうか。ひくひくするお尻の穴に指を三本も入れて、一生懸命掻き回して、でも上も下も全然気持ちいいのが足りなくて。それを眺めながら、こいつはとてもきれいな顔で笑うんだろう。
そこまで考えて、アルバの目からまた涙が零れた。しかし、それがどんな感情から組み上げられたものであるのか、自分自身にすら分からなかった。視線の先で喉仏が下がって上がる。薄い唇が開く。
「――へんたい」
喉の奥が一気に引き攣って、熱が上がって、突かれてもいないのに中がきゅうんと引き絞るようにうごめいてぞわぞわしてびりびりして涎が零れて気持ちよくて気持ちよくて気持ちよくてそして。