101号室 醜くて高価な偶像 忍者ブログ

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醜くて高価な偶像

 

 別にそれがなんであっても構いはしない。それがそれであるというただ一点が重要であり、それ以外は捨象してよろしい。説明の試みは蛇足であって、理由の探求はコンテンツの寿命を削り取る。条件関係で説明しうるなら、必要条件が倒れた時点で命題自体の否定につながる。全ては感覚の問題なのだ。恋慕だの同情だのという名前すら煩わしい。規定されないことは即ち無限定と可塑であり、要請と願望に応ずるままにかたちを変えて存続するということ。

 存続すること。そして愛していること。

 マイン・フュンフにとって、王は絶対的に客体だった。暗愚だろうが賢明だろうが関わりなく、若木の肉体に宿ろうがこうして老いさらばえて萎もうが興味はない。王がマインに向ける感情すらどうでもいいことだった。愛することは快楽だ。愛し続けることはそれが安定して供給されるということ。ただ好きで居続けるというかくも簡単で素晴らしいことが出来ないというのだから、人間は難儀な生き物だと思う。それすら愛おしく感じられるようになってからは、寄り添う女の居ない王の食事に一品増やしてやるようになった。

 王城に居ついてもう数年になる。暮らしに不便は多く、クレアシオンの出現と魔王の再封印のために計画は白紙に戻ってしまった。やらねばならないことは多い。それでもマインは楽しかった。だから、彼は心から言う。

「大丈夫です王様、私がおります」

 激昂した勇者に殴られて頬を押さえていた王は、老いで白く染まった眉を不安気に顰め、それでも小さく頷いた。枯木のように卑小な体には微かな死の影すらあった。

 それを見て、マインはまた笑った。

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