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足折るだけじゃ飽き足らず首輪まで付けちゃいました


 魔界の空はいつでもどこかが燃えている。負の感情を生むために人里に放たれた炎の色だ。人と家畜と畑を焼きつくす色だ。もう見慣れてはいるけれどアルバはいちいち憂鬱になる。

 クレアシオンはルキメデスを封印するという。魔族が殺し壊すのはルキメデスにそうつくられたからではあるが、魔王が消えたからと言って彼らの残虐性は消えないだろう。魔界に平和を齎すためには何か新しい大きな力が必要だった。彼らの破壊を押しとどめる力。抗いがたい破壊衝動というものを理解できないアルバには恐らく持ち得ないものだ。

 他力本願なのは分かっていても、優しい魔王が現れて何もかも良くしてくれることを祈るしかなかった。ルキメデスのやり方に批判的な魔族。誰がいただろう――。

「うおらあああ!!」

「ぐべはぁっ!?」

 後ろから跳び蹴りを食らったアルバは思い切り吹っ飛んだ。そして食い込んだ首輪のせいで首に結構なダメージを負った。

「見つけたぞ魔王アルバ!そんなSMプレイ真っ最中みたいな有様で何考えてるかは全く分からんがとりあえずボクの軍門に下ってもらおう!」

「おま……え……」

 見覚えのある魔族の額には青い焔が揺れていた。

 アルバは完全に油断していた。シリアスっぽいモノローグ中なら理不尽な襲撃を食らうことはないだろうと。だが、何故か悪趣味な首輪を装着された上飼い主買い物中の犬よろしく鎖で木に繋がれているというこの状況が既にギャグであることを失念していた。あっ文字に起こすとほんとにひどい。

MK5……」

 多分「個人的な恨みはないが魔界の未来のために死んでもらう」みたいな意味のことを呟いてその魔族は右手に攻撃魔法のエネルギーを溜めはじめる。頼むから通じる範囲で略語を使えと言いたくても、先ほどの一撃で喉をやってしまったために大声が出なかった。さよならレゾンデートル。

 戦わなくてはいけないが、動きを大きく制限された状態でこいつに勝てる気がしない。それに以前会ったときより明らかに魔力の量が増えている。アルバは焦りつつ身構えた。

 がさっ。

「ただいまアバラマン元気に土食ってたか」

「あっクレアシオンさん!お久しぶりです」

「あーお前レイオット村の?」

 茂みをかき分けて帰ってきた虐待飼い主に向かって、その魔族は両手を揃えて丁寧に頭を下げた。その際右手を塞いでいた魔法は適当に発射されたので反応しそびれたアルバが爆発した。

 

*

 

「いやまさかこんなところでお会いできるとは」

 二代目はクレアシオンの手を握り輝いた笑顔でそんな感じのことを言った。口が全然違う形に動いているが勇者は見ないことにした。

「ところで何故魔王と一緒にいるんです?どういったご関係で」

「ふやけたカップ麵と男子中学生みたいな関係」

「なるほど!うどん野郎だけに!」

「下ネタでうまいこと言おうとするのやめて!?」

 自己再生し終わったアルバはちゃんと機能を果たしていた。作業中に飯を食うバカのせいで身体組成に赤いきつねが混入しているとは思えない性能だ。というか本人知らなかった割に有名なのかこのエピソード。

「あの、魔王って何?確かにボクこの前まで代理やってたけど今は見ての通りただの捕虜だよ?」

「捕虜にこんな扱いしたら人道に対する罪だろうが」

「えっ嘘捕虜以下!?」

「あと見ての通りだとしたらただの変態マゾ野郎なんですけども」

「誤解だから!自発的なものじゃないからこれ!」

「首輪はちぎれないっつってんだろ呪い掛かってるんだから」

 何回同じことしてんだノータリンが。クレアシオンが渾身の力を込めて鎖を引くと暴れる少年はすっ転び、凄い勢いで木に激突した。あーすっきり。

 二代目は顎に手を当てて考え込んだ。

「うーん出回っている話が間違ってるんですかね?アルバ・フリューリングはルキメデスに造反し魔王の座を奪おうとした、ってことになってるんですが」

「は?なにそれ!?」

「その際邪気眼が発現し『ボクに逆らう者は親でも殺す』『全てに勝つボクは全て正しい』等の言葉を残したと」

「そんな不適切発言するわけないっつーの!?誰だよそんな大嘘拡散してんの!」

「それは本気で聞いてるのか?」

「ごめん実は分かってた」

 相互理解は順調に進んでいた。

「しかしアルバ君ルキメデスのお気に入りだったからね。裏切られたあいつが荒れてるのは事実らしいですよ」

「そんなまさか……また神羅万象チョコのカードだけ集めてウエハース全部捨ててるなんてことは」

「いや今回はそんな生易しいもんじゃない。ついに無料で魔法石大量ゲットという魔道に落ちたとか」

「よく分からんがなんかヤバそうだな」

「はい。ほんとによく分かりませんが」

「いつ地に足付けるんだあの人……」

 木に寄りかかったままのアルバは頭を抱えた。距離があるのにイラついたクレアシオンが鎖に手を掛けると、また引きずられるのを恐れてか自分から走って近づいてくる。小動物か貴様。犯すぞ畜生。

「それでクレアシオンさん、実情はどうなんです?ボクも今造反真っ最中なんでアレなんですけど周囲の認識としては三魔王鼎立状態ですよ。アルバ君が魔界の平定と健全な性風俗の敵になるなら仕方あるまいと襲撃しちゃいましたし」

「賢明な判断だ」

「褒めたぞこいつ」

「ですよね!首輪プレイしながら遠い目して黄昏れてるとかほぼ公害じゃないですか」

「汚染原因そこの勇者だからね!?」

「お前が一回脱走したからだろうが。あと手籠めにする度足折ってもなお抵抗し続けるからイライラしてつい」

「そうか脱走防止なら仕方ないですね」

「後半の犯罪行為の告白についてはノーコメなの?」

「えーとじゃあ、ドンマイ!」

「投げやり……」

 首輪付きの魔王はちょっと泣いていた。

「ううう同族のよしみでこの首輪取ってよ……鬼畜の所業にもう耐えられない……」

「大丈夫だよ豚野郎お前はまだ行ける子だから」

「優しさのベクトル変えてください勇者様」

 それを聞いて、公開SMプレイ(同意に基かない)を強制的に鑑賞させられていた二代目は首を傾げた。

「というか首輪以前になんで一回しか逃げないの?アルバ君は対人ストレスによる魔力生成量が他の魔族の三倍なんだからそれだけ泣き叫んでたら何とかなるのでは」

「えっまた知らない設定出てきたんだけどボク一体どうなってるの?」

「体組織に含まれる大量の化学調味料の影響だよ。他人との摩擦に耐えられずすぐに傷ついてしまうんだ」

「そんな現代の若者みたいな理由!?」

「あー道理で色んな体液からうま味調味料みたいな味がすると」

「おいやめろ」

 二代目が腑に落ちた顔で手を打った。

「なるほど!そういうことでしたか!」

「今の生々しい下ネタで何をどう納得したお前!?」

 

*

 

 クレアシオンが「次元の狭間での暇つぶし要員として捕獲した」と説明したところ二代目はあっさり納得し、手を振って勇者を見送った。引きずられつつもお願いこれ外してと縋るアルバを無視して。ムラっと来たので三発ほど殴った。

「おいテジカルビ野郎」

「豚野郎から食用部位名になったけどお前の頭の中でボク何されてるの!?」

「今フランベしてる」

「食卓のお肉出来ちゃったよ……」

 引きずられずかつ殴打の手が届かない絶妙な距離を保ってアルバは歩いている。鳥頭がついに学習してしまった。

「結局なんで逃げないんだお前。逃亡を企てる度死なないギリギリの性的虐待を加えようと思って楽しみにしてたのに」

「あれ?勇者?お前の称号って勇者でいいんだよね?」

「自分で名乗った訳じゃないから最終鬼畜兵器とかでも全然問題ない」

「蜂の巣にされんのボク!?」

 アルバは怯えた声を出したが歩調は変えなかった。器用な真似が小賢しかったのでクレアシオンの方が少々近づいて距離を詰める。アルバは逃げない。

「あーうん、なんていうか、ボクもルキメデス様のやり方にはちょっと思うとこあったんだよね。お前があの人を何とかしようとしてるなら見届けてもいいかなって思い始めてて」

「尻が疼いて仕方ないからではなく?」

「尻が疼いて仕方ないからではなく!」

 マジか。突然のデレにクレアシオンはちょっと驚く。ストックホルム症候群でも患ってんのかこいつチョロすぎだろ。いっそ心配になってきた。えっ心配?誰が誰を?うん??

「……ルキメデス『様』じゃないだろ。お前はまだあいつの奴隷でいるつもりか」

「――クレアシオン、」

「クレアシオン『様』だゴミ山」

「ああそっか所有権移転しただけかぁ!」

 アルバはいっそ晴れ晴れした顔で言った。大きな眼の端には涙が光っている。あーくそかわいいこの場で引きずり倒して号泣するまで甚振ってやりたい。

 クレアシオンは二代目の別れ際の言葉を思い出す。お二人の続柄って一応兄弟になるんですよねちょっと法律婚は無理かもしれません。

 知るか。最終目的地は魔界じゃなくて次元の狭間なのだ。即ち俺が法だ。勇者はここ最近継続的に頭がおかしかった。

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