101号室 フェアリーテールにお別れ 忍者ブログ

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フェアリーテールにお別れ


 最初の魔王、我らがつくりぬし、封印の中で眠るもの。御伽噺の住人はかつて確かに世界の中心にいた。

 千年の平穏に不満を抱くものはそう多くなかった。ルキメデスの名は違う男を称えるために唱えられ、その度に彼の人は薄らぎ霞んでゆく。ディツェンバーにはそれが受け入れられなかった。争いの中にしか生きられぬわけではない。弱肉強食という言葉に魂を捧げるつもりはなかったし、体制変革後の利権にさしたる興味もない。己が初代復活を企てる一派の中心でありながら最大の異端でもあることは常に感じていた。

 夢物語を追っただけなのだ。遥か遠くの輝きに焦がれ、星を掴もうと手を伸ばす子供と変わりなく。それは何らの手段ではなくて目的そのものであり、見返りは奇跡の現前と達成感のみで十分以上だった。ディツェンバーにとってのルキメデスはそのようなものだった。

 一度殺した子供が勇者クレアシオンを探している。それを聞いたときディツェンバーは思わず笑ってしまったが、同時に奇妙なシンパシーを感じていた。同じ御伽噺の裏面に触れようと足掻く人間がいたのだと思った。己と彼の夢物語は必ず一時に叶い、そうしてから後に互いを食らいあう類のものなのだろう。四大魔の男は、他の魔族の誰でもなくちっぽけな人間の子供に対し密かな親近感を抱くようになっていた。

 けれど、それは勘違いでしかなかった。

 子供はたった一人のために勇者となって御伽噺を終わらせるための剣を振るう。その切っ先に貫かれたとき、ディツェンバーは何故か手ひどい裏切りに会ったような気持ちになった。

 ――なぜお前はそんなに近くを見つめているのだ。

 アルバの視線の意味を理解して彼は叫びだしたくなった。彼らは少しも同じものではなかったのだ。

 たとえ命を捨てたとしても、この少年にだけは己の御伽噺を奪われるわけにはいかなかった。

 

 

 

 

 

(夢物語を殺された男)

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