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「ひ、やだ……やだ、来ないで!」
巨人は哀願にも耳を貸さず、震える少女へと距離を詰める。醜い単眼は狩りの興奮にぎらついており、悪臭を放つ口からは絶え間なく涎を零していた。
足が萎え逃げ出すことも出来ない。それに後ろは崖だ。こんな森の外れに通りかかる人間もいないだろう。恐怖に頭が真っ白になる。
「助けて、神様、だれか、勇者アルバ、助けて……」
泣きながらひたすら祈った。神様なんていないし、アルバが死んでしまったことも知っている。だが、少女は他に縋るべき名前を持っていなかった。
下卑た笑いを浮かべた怪物が腕を振り上げる。爪が少女の柔肌に触れるより先に、その腕は消失した。
「……え?」
巨人が苦痛に絶叫する。突如現れた人影に向かって残った腕を振り上げるが、剣の一閃によってそちらも斬り飛ばされる。更なる追撃で胴体を両断され、魔物は光の中に消え去った。
少女はその一部始終を呆然と眺めていた。顔の左半分を眼帯で覆った救い主は、残った黒い目に親しげな表情を浮かべて彼女に駆け寄る。
「大丈夫?怪我はない?」
「あ、大丈夫、です!ありがとうございま……!?」
そこまで言ってから少女は異変に気付いた。眼帯の青年の身体がだんだんと透明になりはじめていたのだった。
「え!?これ一体、どういう……」
「ああ、大丈夫だから気にしないで。ボクのこと大好きな馬鹿野郎がいる限り、完全に消滅はしないから」
助けが必要になったらまた呼んでね。余白の多い微笑を浮かべて青年は言った。消え去る寸前、狐色の髪が炎のような夕暮れの光を弾いた。
「だって、勇者はみんなの希望なんだから」
奇妙な冒険者となったアルバは、絶望することもなく呟いた。