101号室 掴み損ねたジギー・スターダスト5(完) 忍者ブログ

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掴み損ねたジギー・スターダスト5(完)

 

 渾身のフライングニーはシオンと思しき子どもを見事にぶっ飛ばし、全力で突っ込んだアルバも少年と絡み合うようにして倒れ込んだ。割と全身痛かったが知ったことか。勇者は達成感に満たされていた。

「やぁっと見つけたぞこん畜生……!突然人のこと高高度に召喚して自由落下させた挙句魔法使えなくして変なとこテレポートさせやがって……」

 前半は別にいい。骨折も筋肉断裂も回復魔法で治せたし魔封じも現にこうして解除できている。問題は最後だった。

「なんでよりによって孤島のスライム洞の一番奥に飛ばすの!?ヌシみたいなでかいスライムいるし魔法使えないのに物理無効だしエロ同人みたいな展開かまされて大事なもの失いかけるし逃げ出したら逃げ出したで遠泳大会だしあらゆる意味で死ぬかと思ったわ!バーカ!バーカバーカ!!」

 超展開に次ぐ超展開の鬱憤をぶつけても、何故かシオンは反論してこない。訝しく思ったアルバが倒れ込んだままの彼を覗き込むと、少年は燃える蠍のような赤い目を見開いたまま、信じられないものを見たとでも言うように固まっていた。もしかして跳び蹴りはやりすぎだったろうか。殴るくらいにしておくべきだったか。罪悪感に負けた小市民が謝罪の言葉を口にしようとした瞬間、背後から膨大な魔力が襲い掛かるのを感じた。アルバは反射的に障壁を展開する。巨大な火球は薄く光る魔力の壁を叩き壊そうとしたが、やがて力負けして消滅した。

「えっと、あれ?クレアさん……じゃ、ないよね」

 目の前にいるのは知った顔だが、気配が、表情がまるで違う。そしてアルバの知る彼よりも大分幼いように見えた。隣で瞬きを繰り返すシオンの――クレアシオンの疲弊しきった蒼白な顔と虚ろな瞳を見て、アルバはようやく状況の断片を理解した。

 魔王は舌打ちを零し、不快感を剥き出しにした口調で闖入者を詰った。

「困るなあ。今ラスボス戦中なんだけど」

「じゃあゲストキャラ参戦で。ユニット名はアルバ、クラスは勇者」

「……勇者はうちのクレアシオンだ」

「頭かったいなあ」

 アルバが言うと、ルキメデスの眉間の皴が深まった。魔王の周りに指向性を与えられた魔力が収束し始める。無音詠唱が開始されていた。

 もう一人の勇者は身を起こし、クレアシオンを庇うように立ち塞がった。その手には守るための剣が握りしめられており、彼の目は真っ直ぐにルキメデスに据えられていた。

 アルバは不敵に笑い、呟いた。

 

「勇者がひとりじゃなきゃいけないなんて、誰が決めたんだ」

 

 

***

 

 

 足元から迫りくる深淵の腕を風の刃で切り刻み、四方八方から乱射される悪意の閃光を剣の一振りで打ち落とす。御伽噺に出てくるような勇者は、時折倒れ伏したままのクレアシオンに笑いかける余裕すら見せた。

 夜の闇も屈折した星屑も全て塗りつぶし世界を覆う、朝焼けのような微笑だった。

 燃え尽きたはずのさそりの心臓が、どくんと音を立てて脈打つのが聞こえた。

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