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夢の中ですら逢いたくなかったわたしの最悪のともだち

魔法使いになりたかったことがある。

 きっと誰しもそうだろう。カボチャを馬車に作り替え、不思議の城を動かして、伝説の勇者を助け導く。万能の魔法へのあこがれは小さな子供に共通で、けれど年齢を重ねるごとに現実社会に脱色されてファンタジーのラベルを貼られてしまう。

 懐かしさだけ残していつかは薄らぐ、優しくて甘い幼気な空想。

 だったはずなんだけど。

 

*

 

 定期考査が一週間後に迫り部活動は休止期間に入ってしまった。空が明るいうちに帰れるのはそれなりに嬉しかったけれど、未着手の問題集のことを考えると気分が重くなってくる。今思い返すと世界史を選択したのは間違いだった。アヌスアヌスうるさいです多すぎです覚えられません。

 交差点の信号が点滅し、アルバはそこで立ち止まる。ついでにシャー芯が切れていたのを思い出した。文具店は大分前に通り過ぎてしまったのでコンビニに寄ってから帰ることにする。

 小路に入り閑静な住宅街を進む。と、何やらガムのようなものを踏んでしまったような感触があった。靴の裏を見ても何もついていなかったが、気のせいだったのだろうか。

 顔を上げると、いつの間に現れたのか季節外れの黒いコートが視界に入った。

 何者だろう。見覚えのない後姿だが露出狂の類かもしれない。怖いもの見たさで近づいていくと、黒コートが何やら奇妙なステップを踏んでいるのに気付いた。

「やっ、と見つけま、したよ、ゆう、ってやめてください!黒いコートだと凄い目立つから!割と高かったんですこれ、うっわ避け切れない!」

「くっ、俺に残された魔力では周辺の鳥を操って頭上から大量のフンを落とさせるのが精いっぱい……どうすれば奴に一生残る肉体的な障害を負わせられるんだ……!」

 上を見ると電線にありえないほどの雀が止まり入れ替わり立ち代わり用を足し続けていた。雀なのに目白押し。局地的に白い雨が降り非常に恐ろしい光景が広がっている。

 そして、少し離れたところには形容しがたい小動物がいた。犬なのか何なのかよく分からない体に殴り書きのような気の抜けた顔、頭部と思わしき場所には何の電波を受信しているんだという漆黒のバリサン。あとなんかひどい感じのこと喋ってる。

「なにこれ……」

 ボク絶対疲れてる。今日はゆっくり寝て明日から勉強頑張ろ。

 常人の感性ではちょっと理解しがたいものを見てしまったアルバは引き返すことに決めた。

 が、遅かった。

「……誰だ!?」

 アルバの呟きを拾った(元)黒コートが勢いよく振り向く。その瞳がサイコロのような奇妙な形をしていることに気付くより先に、アルバは背後に冷たい気配を感じた。

「え、え?これ何?」

 振り返ると、道路を影の塊のようなものが塞いでいた。先ほどまでは明らかに存在していなかった物体。一体なんだろうこれは、何か嫌な予感がする。

「……結界を突破してくる人間がいるとは。個人的な怨恨はないが、見られたからには消えてもらいますよ」

 やたら物騒なことを呟きながら白コートが距離を詰めてくる。何言ってんだこいつもしかして本格的にヤバい人じゃないの。後ずさりしようにも、退路を塞ぐ影は触ってはいけない感じがビンビンだった。

 恐慌状態に陥ったアルバは助けを求めるように辺りを見回す。アルバはただの男子高校生で、運動はそれなりにしていても武術の経験など全くない。頼れそうな大人の姿もない。どうしよう。消すってボク何されるの?

 目を瞑って天に祈る寸前、物凄く邪悪に微笑む何かが見えた。

「っぐおおおお!?」

 悲鳴を上げたのはアルバではなくコートの男だった。恐る恐る目を開けると、先ほどまで電線にすし詰めだった雀の群れが大挙して襲い掛かっていた。アルバは本能的に駆け出し距離を取る。やっぱり意味は分からない。

「なんなのこれ……ボク家帰れるの……?」

「このままじゃ無理でしょうね」

「うおっ!?」

 足元で声がした。目をやると例の謎の獣。口を動かさず喋っているのはなかなか怖いものがあった。

「ああ見えてなかなか強力な魔族ですから。足止めを解いた途端、間違いなくあなたの上半身と下半身はサヨナラすることになります」

「は!?どうしろっていうんだよ、ていうか魔族って」

「説明している時間がありません。間抜け面のゴミ山さん、あなたの本名は」

「その仮名ボクのこと指してんの?」

「いいから答えろド腐れ産廃野郎」

「悪化した!?……アルバだよ!アルバ・フリューリング」

「ではアルバさん。五体満足でここから出たいですか?」

「出たいに決まってるだろ!訳も分からないまま殺されてたまるかっての!」

 淫獣は犬歯を剥き出し、にやりと笑った。

「では、あなたは俺と契約して魔法少女になりました」

「……え?」

 魔法?少女?契約?っていうか承諾もしてないのに完了形?

 あらゆる疑問を口にする前に、アルバは胸部に鈍痛を感じた。

 

*

 

 やっべえ凄い痛い。息すると刺さる感じがする。あとなんか全身が尋常じゃなく光ってるし超こわい。

 視界を白く灼かれながら、アルバはなにもかも夢であるようにと心の底から願った。訳が分からないよ。家に帰らせてくれ。

 しかし現実はいつだって非情である。光が止んでもコートの男と淫獣は変わらずそこにいた。変わったのはアルバの出で立ちの方だった。

「……何これスカート?っていうか胸……胸!?」

 ついさっきまではワイシャツと制服のズボンだったというのにそれらはどこに消えたやら、アルバは微妙にコスプレ臭いセーラー服を着用していた。鮮やかな青のプリーツスカートは膝上15センチほど、真紅のスカーフはハートのような形のブローチで束ねられている。パフスリーブの上衣は丈が詰めてあるのか臍が出ていてちょっと寒かった。あと男性として膨らんでいてはいけない部分が妙に膨らんでいる。

 重ね重ね意味が分からなかった。一回寝れば醒めるのかこれ。

「少女なんだから胸あって当然でしょう。それともつるぺた幼女ボディがお望みでしたか気持ち悪いんだよ自己愛型ロリコン野郎め複数の機関に通報しますよ」

「何の承諾もなく人を性転換させておいて長文の罵倒!?何なんだよお前!!」

「魔法猫のロールだニャー」

「猫だったんだ……」

 狆とかそのあたり特有のデリケートな不細工さがあったので犬だとばかり。語尾に関しては聞かなかったことにした。

「魔法少女ものに必須のマスコットキャラですよ。重要アイテム管理したりダメージ回復したり傷口に指突っ込んだり膿ませたり壊死させたり蛆を湧かせたり人間関係を悪い方向にかき回したり軽犯罪行為について針小棒大な表現で通報したり嫌がらせのためだけに野郎を少女にしたりしてあなたの戦いをサポートします」

「サポートって言葉辞書で引いたことある?」

「あと相方にロックというのがいまして、合体してロックンロールになると歯でギターが弾けるようになり27歳で死にます。あなたが」

「ボクが死ぬの!?」

 アルバはそろそろ泣きそうだった。なんで命の危険に晒された挙句向こうの都合で性別変えられ妙な格好をさせられ謎の生命体に絡まれなくちゃいけないのだろう。あと戦うって何とだよ。どう考えても最大の敵はお前だろうが。

 その時、アルバの頬を何かが掠めていった。頬を一筋血が伝う。

「くっそやっと全部追っ払った……なんですかその恰好。変装しようが何しようが逃がしてやるつもりはありませんよ」

 コートの男がこちらを睨みつけていた。赤い視線は殺気を纏って燃えており、アルバは背筋を冷たいものが走るのを感じる。こいつ、本当にボクを殺す気だ!

「大人しくしていれば楽に死なせてやる。ドゥンケルハイト!」

 男が叫ぶと同時に影の触手が殺到してきた。首を、腹を、心臓を狙っている。反射的に右に跳んだ。

「……え!?」

 跳躍、というより最早飛翔だった。軽く地を蹴っただけなのにアルバの体は天高く舞い上がり、電柱の天辺にふわりと着地する。スカートの端が風にひらめいた。

「魔法少女になると身体能力が飛躍的に向上します。力加減を誤らないように注意してください」

「うおおおお前どっから出た!?」

「胸の谷間に潜んでました」

「平然とセクハラ告白すんな!」

 ロールがのそりと顔を出す。相変わらず微妙なツラをしていた。

「ねえあれ、あのうねうねする影みたいなの、何なの?っていうかあいつ何者?」

「攻撃魔法です。直撃したら一発アウトでしょうね。あの男はディツェンバー・ツヴォルフという名の魔界の住人、即ち魔族であり、魔王復活と人間界侵略を目論む過激派です。魔法少女の使命は過激派を残らず魔界に送還することです」

「サラッと言ったけどそれ契約前に説明すべき重要事項だよね!?」

「言ったら契約したがらないと思って」

 悪徳業者かよ。

 ディツェンバーの第二撃が電柱を襲いアルバは慌てて飛び移る。電柱の上三分の一ほどに直撃。不自然にずれたそこは落下することなく無音で掻き消えた。冷や汗が伝う。次の電柱、次の塀と着地地点は紙一重というスピードで削り取られていくが、何故か住民が騒ぐ気配はなかった。風を切る音に次いでパラボラアンテナが半円になる。

 ひたすら逃げ回るアルバにディツェンバーは舌打ちをする。

「魔力を分け与えられたか!だがすぐには使いこなせるまい、バテるまでやればこちらが勝つぞ!」

「うっわ!」

 今度は一本の影が太腿を掠りスカートの端を切り取った。直撃は免れているもの逃げ続けるだけ回避の精度は落ち、アルバは今や傷だらけだ。息も上がり始めており、このままではいつまで保つか分かったものではない。アルバは焦っていた。

「逃げ回るだけじゃ埒が明かない!ロール、攻撃魔法とかないの!?」

「魔法杖があれば展開可能ですよ。杖を顕現させるためには手に意識を集中させ『リリカルマジカルラブラブずっきゅんあなたのハートにご奉仕にゃん!マジカルプリンセス☆アルフォちゃん参上!』と可能な限り可愛らしい声で」

「り、リリカルマジカルラブラブずっきゅん、あああなたのハートにご奉仕にゃん!マジカル、プル、プリンセス☆アルフォちゃん参上ぉっ!!」

「言わなくとも念じるだけで出てきます」

「うわあああああああ!!」

 手の中には白く輝く美しい杖が現れた。先端には星と月をあしらったようなデザインが施されており見るからに強力なマジックアイテムを手に入れたはずなのだがもっと大事なものを失った気がする。もうやだ。

「お前ボクに何の恨みがあるの!?」

「別にないですけど貴様の苦痛と絶望と恥辱が俺の糧となるので」

「クーリングオフ!!」

3000円未満の契約には適用されません」

 アルフォって誰だよ。チョコ菓子かよ。世の理不尽さと法の欠缺に魔法少女が愕然とした隙を魔族は見逃さなかった。

「ドゥンケルハイト!」

「っく!」

 避けられない!アルフォは咄嗟に握り締めた杖を眼前に突き出す。何でもいいからとりあえずこの一撃を逸らせるぐらいの魔法出てくれ!!

 かきん、という硬い音。衝撃はない。思わず閉じてしまっていた瞼を開けると、襲い掛かってきた影の奔流はアルフォの数センチ手前で跳ね返されている。そして薄く光る半球形の障壁の向こうでは、己の魔法に胸を貫かれたディツェンバーが血を吐いていた。

 あれ?やったのボク?

「反射した、だと……?即席の魔法少女が、このディツェンバーの魔法を」

「あ、あの、喋んない方が、血出てるし……そうだ救急車、」

「どうやら甘く見ていたらしいな。……本気で行かせてもらう!」

 アルフォが鞄に手を伸ばすより先にディツェンバーはいくつかの立方体を取り出し、血管が浮き出るほどに握りしめた。途端、空気の流れが変わる。何か良くないものが、瀕死の魔族に流れ込み始めていた。

「……えっちょっ、目が、目が増え……!?」

「―――ドゥンケルハイト!」

 六つの目を持つ異形が魔法を展開する。先ほどと同じくアルフォに襲い掛かる影は、しかし規模も密度も段違いだった。コオオオオ、とこの世ならざるものが逆巻く音が間近に聞こえる。反射を試みるも跳ね返したそばから別の影がそれを呑み込んで膨れ上がり、更に押し寄せる勢いを強くした。半球形の障壁が軋み罅が走る。……まずい!

 ぱりぃん!

 甲高い音と共に障壁の右半分が突き破られ、幾条かの漆黒が流れ込んだ。アルフォは上体を捻り避けようとする、だが間に合わない!

「うぐあぁああ!!」

 右の脇腹に焼ける感触が走り、次いで凄まじいまでの激痛に襲われた。目の奥がスパークし意識が飛びかける。寸でのところで障壁を張り直したが、このままではすぐにでもまた突破されてしまうだろう。穿たれた傷から温い命が漏れていく。

 痛みに耐えられなくなったアルフォは思わず腹部を抱えて蹲り、地に頭を擦り付けた。万事休す。

 まさにブラックアウトするというその時、背後から声がした。

「なかなか俺好みの苦痛と絶望と恥辱です。ご馳走様でした」

 その瞬間、天から光条が雨の如くに降り注ぎ、音もなく世界を染め上げた。

 

*

 

「え……?」

 脇腹の痛みが消えた。押し寄せていた影の大群も消えた。それだけでも状況が分からないというのに、トドメとばかりに背後には知らない男が立っていた。

 血より赤い目に整った鼻梁、艶を帯びた固い黒髪。痩せた体に時代がかったローブを纏う彼は、男を辞めていないはずのアルフォすら見惚れるほどのものだった。

「あの、え、どちら様ですか?」

「パンツ丸見えですよプークスクス」

「うえええ!?」

 思わずスカートを押さえた。ボク小一時間前まで男だったはずなんだけど何でこんなことしてるんだろう。というか、この人の心に対する配慮の欠如具合はまさか。

「お前まさか……ロール……?」

「正解です。絆ですね!」

 マジかよ。何を合成すればあの切ない顔の猫もどきが白皙のイケメンに究極進化するというのだ。進路決定にはどう考えても平等性が足りなかった。

「あなたが散々溜めこんだ負のエネルギーのお蔭で一時的に本来の姿に戻ることが出来ました。さ、ちゃっちゃとアレ片しちゃいましょう」

 アレ、とロールに指されたディツェンバーは縫いとめられたように動かない。ただでさえ青白い頬から更に血の気を退かせ、口をはくはくと戦慄かせていた。

「き、貴様、その姿……まさか、この魔法少女!」

「余計なことは言うな三下」

 ロールが一つ指を鳴らすとディツェンバーは見事なアフロになった。

「次は逆モヒカンだ。当然ソフトじゃない」

「ひっ!」

 涙目。敵ながらちょっと可哀想になってきた。

「さてアルフォさん決め技です、全身に魔力を行きわたらせてください。さっきの障壁で自分の体を包む感じで」

「う、うん」

 魔法少女だったら光線とか発射する系の必殺技だと思うんだけどチャージか何かだろうか。疑問を感じつつもアルフォは言われたとおりにする。

 頭の天辺から順に足の先まで、穏やかな輝きが包み込んだ――瞬間に両足首をまとめて掴まれ逆さ吊りにされた。

「ええええええええ!?」

「ひぃいっ!?」

「必殺――」

速い速い速いやめて死んじゃう!ディツェンバーまでの数メートルの距離を一歩の踏込みで詰め、ロールはアルフォを振りかぶる!

「クーゲルストライク!」

 ごっしゃあぁああああん!!

 凄まじい勢いで吹き飛ばされたディツェンバーは極鋭角でブロック塀に接触し、運動エネルギーが消費されきるまでの数秒間そのままそれに沿って飛び続けた。塀との接触面にR-18Gな感じの軌跡を残して。ひっでえ。

「うわーすっげえ紅葉おろしみたい」

「うぐぐぐ……色んな意味で吐きそう……」

 全力でスイングされたアルフォは三半規管とハートを破壊されていた。なんだこの扱い。なんでこんな血腥いの。

「……ていうかこれ犯罪じゃ」

「魔族は人でも人の所有物でもないので犯そうが殺そうが無問題ですよ」

「怖っ!世紀末かよ!?」

「結界張ってましたから魔力による街の破壊は気にしなくて大丈夫です。案ずるべきはあの血みどろの壁ですけど、あなたの前科が綺麗なら実刑まではいかないでしょう。民事は頑張ってくださいね」

「えっ待って実行犯お前だよね?なんでボクが訴追される感じになってんの?」

「ほら俺マスコットなんで」

「はぁ!?」

 ぺかー。アルフォの全身がまた光り出す。あっこれもしかして。

 数瞬の後、そこにはよく分からない獣と男子高校生が立っていた。

「あれお前戻っ……ボクも戻ってる!?やった適切な位置に適切なものが付いてる!」

「魔力切れですね。変身を維持するためには大量の負の感情が必要なんです」

「え?」

「あなたがこの世の理不尽に落涙し耐えがたい痛みと屈辱に苦悶の絶叫を上げ続けなければ魔族と戦うことはできません」

「ちょっ無理じゃあ戦わない」

「魔族は俺を狙ってきます。そしてあなたは俺から一定以上離れると行動不能になります。まるでゾンビみたいにね」

「まさか……」

「魂預かっちゃいましたてへぺろー」

「うわああああああ!!」

 こんなの絶対おかしいよ!アルバには後悔以外何もなかった。やめてくれ。誰か時間を戻してくれ。

 その時、がらり、と引き戸の開く音がした。

「おいうるせーぞガキ!人んちの前で何騒いでやが……え……?」

 騒音の苦情を言い立てに来た老人はアルバの方を見て固まった。正確には、アルバの脇で赤黒く染まっている自宅の塀を見て。

 やばい。

 アルバとロールは目配せもせずに同時に走り出した。

 

「まさに以心伝心って感じですね」

「お願いだからその心をボクに返して!っていうか変身解いてから胸に激痛走り続けてるんだけどこれ何!?」

「あ、一回の変身につきアバラ一本折れるんで」

「ふざけんなちっくしょおおお!!」

 

 

 負けるなマジカルプリンセス☆アルフォちゃん。

 君の戦いと苦難と屈辱と絶望及び絶え間ない負傷の物語は始まったばかりなのだから。



***

 

 

 異次元の回廊は高さと奥行きが混ざり合い歪んだ道筋を描いている。どこでもないが故にどこへでも行けるその暗がりを、魔族は足を引きずりながら歩いていた。

「たった一撃で二の目から六の目がやられた。なんとか逃げ切った私すら、しばらくはまともに動けないだと」

 ディツェンバーは苦々しげに唇を歪める。削り取られた筈の顔の半分は漆黒の影に覆われていた。

 罅割れた5つの賽を握りしめるその手は、抑えようともしない憎悪に震えている。

「この借りは万倍にして返してやる。……覚えていろ魔法少女アルフォ、そして」

 邪魔者が増えてしまった。何としてでも排除しなくては魔王様復活の野望は実現できないだろう。

「――勇者クレアシオン」

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