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それなら、と手を伸ばす。受け取ったものは宝石のよりもきらきらと輝いている。
その瞬間、胸の奥深くにまで何か温かなものが突き刺さるのを感じた。
二千と数百年生きてきたが、もしかしたら人から一方的にものを貰うというのはあれが初めてだったのかもしれない。たった一発で彼は見事に撃ち落された。
しあわせをくれる、と言ったけれど、勿体なくてとても使えたものではない。飛び切り頑丈な容器に入れて肌身離さず持ち歩いてみれば、あの子と一緒にいるような気がして少しばかり愉快になった。
あの時の出会いを子どもは覚えていないのだろう。だが、自分はあれからずっとあの子を見続けていた。背が伸びてぬいぐるみを手放し剣を取って勇者になり、そして暗い檻に押し込められた今に至るまで。幸福を他人にくれてしまった「普通でない」アルバは平然と何もかもを受け入れてみせた。では、莫大な魔力を抱え込んだあの少年が「普通に」なってしまったら?
今はまだ時期尚早だ。ポイントオブノーリターンを越えて暴走と破滅が不可避になったその時に、この自分が手ずから返しに行くのだ。
その瞬間のことを想像するだけで彼はいつでも甘やかな幸福を感じるのだった。
「待っとるよ、アルバさん」
恋する男は笑う。エルフが玻璃瓶を月光に翳すと、そこに満たされた魂の欠片がぼんやりと輝いた。