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「こんばんはシーたん!今日も今日とて人生楽しそうで何よりだ。キレーな湖にうまい食事に楽しそうなクレアくん、それに明日はカテキョーか。道端のクソの如き半生を取り返すようにステキなイベント満載でパパちょっと嫉妬しそうだわー。その手が他人の血でベットベトなのは変わんないっていうのにな。ああでも違うな、他人のばっかりじゃあない。忘れたのか?忘れられるはずがないよな?お前が選んでお前が為したことだろう、父親殺しの勇者様」
うるさい。
「父殺しは近親相姦願望の表出なんだってよ、何お前ママと結婚したかったの?違うよなあお前他に好きな子いるもんなあ。桃色の片思いーってやつ。ぷぷー!遅れてきた思春期って怖いよねえずーっと独り相撲とってるの疲れんだろ?それともむしろそれがいいの?ホモとマゾの二重苦だなんて難儀な性癖だねシーたんあーかわいそかわいそ。天を呪いたくもなっちゃうよねー」
うるさい。うるさい。うるさい。
「ところでシーたん神様っていると思う?倫理の総体でも大いなる愛の別名でもなくて我らつくり給いし創造主の方。インテリジェントデザイナーでも構わない。そういうものって存在すんのかな?それとも間抜け面したサルが万年単位で勝手にしこしこ頑張ってたらいつの間にかオレとかお前になってたの?ちっちゃいころからずーっと疑問でしかたなかったんだよオレ」
うるさい。
「どんなに考えても考えても結局分かんなかった。仕方ないから自分で神様になってみたんだよね。何もないところから言葉も天地も獣も人も、何もかもぜーんぶオレがつくった。いやあ魔力ってほんとスゲーな!お前とクレアくんには感謝してもしきれないね、世界征服なんてちっちぇーとこで収まってたらこうまで楽しい思いはできなかったろうし」
うるさい。うるさい。
「神様にはすべてが許されているんだよ。だって世界が持ち物であるゆるものが己の被造物なんだ、自分で組み立てた模型を改造しようが壊そうが誰に文句を言われる筋合いもないだろ?だのに反抗してくる恩知らずが多すぎてほんとにめんどくさかったわー。まあそこはお前も一緒なんだけどさシーたん!オレが命を与えたのだからオレにはすべてを行う権利がある。単純明快極まっていっそ美しい論理だろうに」
うるさい。
「それでは恋に苦しむ青年よ、お前の話に戻ろうぜ。お前はあの子に何をしてやった?旅路を先導し話し相手になり身の回りの世話を焼いてやり。甲斐甲斐しいもんだなあ、でもそれだけじゃないだろう?目を背けるなよ思い出すまでもなくそこにあるじゃないか、お前はその為に全部諦めたじゃないか、なあ?お前はあの子に命をやったんだ」
うるさい。うるさい。
「完膚なきまでに死んでたよなあ。いつかのお前と同じくらいに。灰に過ぎない彼は灰に還るべきだった、だがお前はそれを掻き集め再びの命をくれてやったのだ。これは創造に等しい行為だろ?つまりはだシーたん、あの子との関係においてお前は神なんだよ」
うるさい。うるさい。うるさい。
「もう一度言うけど神様にはすべてが許されている。与えることも奪うことも嬲ることも裁くことも許すことも傷つけることも捨てることも犯すことも壊すことも愛することも憎むことも生かすことも殺すこともすべてだ。お前にはその権利があるんだよシーたん、分かってるんだろ?気付いてるくせに知らない振りして友達ごっこしてんだろ?何のためにそんな頑張ってんだろーなーもっと素直になっていいんだぜ!誰にも咎められないんだから心の導くままに好き勝手しちゃえよ」
うるさい。うるさい。うるさい。
「――パパみたいにさ」
うるさい。うるさい。うるさい。うるさい!
「なんでオレがこうしていると思う?お前が殺したはずのオレが。生き返った?死んだふりをしていた?いいや違うね、最初から殺そうともしていなかったというだけだ。なあシーたんお前は誰だ?自分の名前を言ってみろ。お前は勇者である前に王宮戦士である前にオレの息子なんだよ、『シオン』。お前の半分はオレで出来てる。お前の皮膚の一片に至るまでにこのルキメデスは存在する。お前はオレになり得るものだ、暴虐と傲慢の血が今もお前の心臓で脈打っているぞ!」
黙れ黙れ黙れ!!
「選択の時はいずれ来る。楽しみだなあ、その時オレの息子はどうするのだろう。きちんとあの子を奪えるのかな?お前の中の父親はいつだって全部見ているよ」
息子と同じ色の目を歪めて魔王が笑っていた。
*
「なんかあったの?滅茶苦茶顔色悪いけど」
「……ちょっと夢見が悪くて」
あの悪夢以来吐き気と頭痛が止まらない。軋む体に鞭打って家庭教師に向かったが、アルバと顔を合わせた瞬間に心配された。取り繕う気力もないシオンは端的に事実を告げる。何かを察したのか勇者はそれ以上追及してこなかった。
「今日はやめといた方いいんじゃないかな」
「何言ってんです。あなたが娑婆に出れる日が遠ざかるだけですよ」
それともそんなに鉄格子がお好きですか、と言って一歩踏み出したとき、眩暈がシオンの足を掬った。
「ちょっ、大丈夫!?」
咄嗟にアルバが支えに入ったので体を打ち付けることはなかった。大丈夫。大丈夫でなくてはならないのだ。なのにこの醜態はなんなのだろう。
背中に彼の手の温度を感じた。「シオン」の灰を掻き集め、再び命をくれた手だった。
「いつまで米俵みたいに人のこと抱えてる気です訴えますよ」
「意外と元気だなお前……」
――俺の神様になってください。そう言ったら彼はどうするのだろうか。