101号室 かなりやは歌を忘れない 忍者ブログ

101号室

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かなりやは歌を忘れない

 

「馬鹿だねえ」

 格子も錠もない広すぎる鳥籠の中で魔王は嗤う。

「お前は本当に馬鹿な子だ。見たくないなら見なければいいし忘れたいなら忘れればいい。自分で勝手に檻を作って飛び込んで、難儀な人生だなあシーたん」

「黙れ」

「ぴーちくぱーちく嘘吐くくせに嘘を吐き通すとなると致命的に下手糞だ。一つだけだと思ってた大事なものも増やしちゃうし、捨てたはずの喜びを簡単に拾ってしまう。抱え込んだ義務だってお前がお前に課した癖に、心の隅に追いやっていたのはお前自身だ。今ここで封印を再構築して、また眠りから覚めたらどうするの?違うお友達を作って同じことを繰り返すのかい」

 もうロスではない彼は黙ってルキメデスを睨みつけた。次などない。自分は自分のいるべきところを思い知った。繰り返すこともない。隣にいるのが他の誰であっても、世界があれほど美しいことは教えてくれないだろうから。

「オレは勇者だ」

 あの馬鹿で、無能で、脆弱で、どうしようもないほど優しい勇者様によって、クレアシオンはこれから初めて勇者になるのだ。この半身を贖うためではなく、彼の生きる世界を守り、救うために。

 脳裏で焼け爛れている思考に向かって、クレアシオンは歌うようにもう一度嘘を吐く。これでいい。これでいい。これしかない。これでいい。

 凪いでいく赤い瞳を見て、魔王は呟いた。

「馬鹿だねえ」

 憐れむような響きには、ほんの僅かに父親の声が混ざっていた。

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