[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「馬鹿だねえ」
格子も錠もない広すぎる鳥籠の中で魔王は嗤う。
「お前は本当に馬鹿な子だ。見たくないなら見なければいいし忘れたいなら忘れればいい。自分で勝手に檻を作って飛び込んで、難儀な人生だなあシーたん」
「黙れ」
「ぴーちくぱーちく嘘吐くくせに嘘を吐き通すとなると致命的に下手糞だ。一つだけだと思ってた大事なものも増やしちゃうし、捨てたはずの喜びを簡単に拾ってしまう。抱え込んだ義務だってお前がお前に課した癖に、心の隅に追いやっていたのはお前自身だ。今ここで封印を再構築して、また眠りから覚めたらどうするの?違うお友達を作って同じことを繰り返すのかい」
もうロスではない彼は黙ってルキメデスを睨みつけた。次などない。自分は自分のいるべきところを思い知った。繰り返すこともない。隣にいるのが他の誰であっても、世界があれほど美しいことは教えてくれないだろうから。
「オレは勇者だ」
あの馬鹿で、無能で、脆弱で、どうしようもないほど優しい勇者様によって、クレアシオンはこれから初めて勇者になるのだ。この半身を贖うためではなく、彼の生きる世界を守り、救うために。
脳裏で焼け爛れている思考に向かって、クレアシオンは歌うようにもう一度嘘を吐く。これでいい。これでいい。これしかない。これでいい。
凪いでいく赤い瞳を見て、魔王は呟いた。
「馬鹿だねえ」
憐れむような響きには、ほんの僅かに父親の声が混ざっていた。