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(さいはてHOSPITAL / 樋口と科学部)
*
理の魔女こと桃本春奈は退院したが、さいはて町は別に滅んだりしなかった。住民のうちある者は日常に戻りある者は新たな居場所を見つけていた。元昼食会現無職の樋口は後者の代表である。彼が部室の扉を開けると、総会議だけあって既に部員が勢ぞろいしていた。
「15分の遅刻だ樋口君。何か言うことは」
「警備員室のお茶が玄米茶に変わってました」
「なるほど。君の諸々についてはもう諦めよう」
ヒノモト学園科学部に入り浸ってはいるものの、明らかに成人男性な上に学生服の中ではパーカーは非常に目立つため、樋口は殆ど毎日警備員に捕まっている。最近は彼が来る時間になると入り口に二人ほど立っていて流れ作業で連行されるようになった。
「それでは本題だ。来年度における科学部の活動のアイディアを募集したい。生徒会の野郎どもが予算を拠出させてくださいって泣きながら土下座してくるような画期的なの求む」
「はい佐々原部長」
「何だね本校に籍を置かない樋口君」
「交霊術がいいです」
「非科学的すぎてパンクだよ樋口さん。これはもう屋上ね」
「血圧上げすぎだよ橘君、一応最後まで聞こうじゃないか。ぶっちゃけ誰降ろしたいの?友達?」
「いや僕のこと斬りつけて来た挙句めっちゃかっこいい感じで死んじゃったタグチ君なんですけど」
彼とは結構長い付き合いだったが結局袂を分かつこととなり、和解もしないまま死に別れた。自分にとってのタグチが何者なのか樋口には未だに分からない。それは喉に刺さった小骨のようで、いつでもなんとなく気にかかっていた。
ふむ、と呟いた部長が目を輝かせる。
「大親友じゃないか」
「そうなるんですか?」
「そうなるんだよ。本当に仲のいい友達はいずれ殺し合うことになるものなんだ」
そういうものなのだろうか。樋口はますます分からなくなってきた。これは是非とも彼の霊魂と対話してはっきりさせねばなるまい、思い出にケリを付けずには今を生きられないのだから。
「だが君の提案を受け入れることはできない。なぜなら我々は科学部だからだ!」
「じゃあ部長、屋上ですね。少年マンガみたいに拳で語り合いましょう」
桃本春奈にとってさいはてが意味あるものならば、そこに住まう者も意味ある生を送るべきなのだろう。彼らをそうぞうしてくれたことへの感謝を込めて。
旅立っていった少女には届かないかもしれないが、樋口は別に構わなかった。
閉じられた空は変わらず青い。世はなべて事もなし。