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「人の布団で永眠はやめてください」
凝り固まった肩に柔らかな光が染み渡る。最近この瞬間のために仕事してるような気すらするのだが、良く考えたら仕事しなきゃ肩も凝らないわけで、目的と手段がぐるぐる回っている気がする。ニワトリが先か卵が先かはよく分からない。
「アルバさんオレ親子丼食べたいです」
「いや見ての通り材料も調理器具もないですからね?」
「安心してください。お土産にガスコンロまな板包丁土鍋と米鶏卵鶏肉だし汁三つ葉持ってきてますんで」
「この牢屋を一体どうする気なんですかあんた……」
「終の棲家に」
「日の当たる生活捨ててまでサボる気なの!?」
徐に立ち上がり、よっこいしょーと声を出しつつ荷物から今日の晩御飯セットを取り出す。あーこれ地味に重い。後でもっかいヒールかけてもらお。
「すみませんトイフェルさん、この土鍋とコンロの間に挟まってぐちゃってなってる可愛らしい封筒は一体何なんでしょうか」
「あっそれ多分ヒメ様からのお手紙です」
流石にぶん殴られた。
*
ミスター牢名主ことアルバさんは地味に料理が上手かった。意外だったので「爆発くらいはさせるもんだと思ってました凄いですね」と褒めたところかなり複雑そうな、というかぶっちゃけ嫌そうな顔をされた。
「ボクだって結構長いこと旅してたんですけど」
「クレアシオンさんが全部やってたのかと思って」
「……突然いなくなっちゃいましたからね。ルキにやらせるわけにもいかないし、身の回りのことは一通り自力でできるようになりました」
「へー」
立派な自立心だ。ぜひうちの王様にも見習ってほしい。そしてオレの仕事を極限まで減らしてほしい。
食器洗いの手間を省くため、丼の底には予めラップが敷いてあった。生ゴミをどうしようかと考えていると、虫湧くんで持って帰ってくださいねとの言葉と共にクーラーボックスに突っ込まれる。主婦のような感性の子だなあ。
「そうだ肩もっかいお願いします。働いたら疲れちゃったんで」
「調理盛り付け後片付け全部ボクでしたけど!?」
ぼふんと音を立てて彼のベッドに倒れ込む。太陽と石鹸と子どものにおいがした。あーもうここで寝てこっかなー。叩き出されるかなー。
アルバさんは物凄く面倒くさそうに溜息を吐いたが、結局折れてベッドの脇に膝立ちになる。魔法を使わないうちから肩に触れた手は温かい。ほのかな光。
「うあー癒されるー。もう勇者やめてマッサージ師なりましょうよー」
「封印されしマッサージ師とかただのギャグじゃないですか……」
「それが嫌ならアレです、嫁に来てください」
「はぁ?」
異星人でも見るような目を向けられてしまった。
「家事全般出来てマッサージも完璧とか立派なお嫁さんになれますよ。オレ結構稼いでますから不自由はさせませんし」
「何故そのお金で家政婦や按摩師雇おうって発想がないんです?」
「知らない人が怖いので」
「コミュ障極まり過ぎだろ……」
好きとか嫌いとか以前に憐れみの対象になっているらしかった。これはアレか、突然立ち上がって「アルバ、ラブ!オレはアルバが好きだ!愛している!」みたいなテンションで叫べば驚愕のあまり心を動かしてくれたりするのだろうか。あーでもギャラ発生しないなら絶対やりたくないわ。間違いなく疲れるし。
反対の肩やるんでこっち向いて貰っていいですかーと声を掛けられたので言われたとおりにする。全く気にされていないというのも多少傷つくものだった。
「考えといてくださいよー。高性能なマッサージ器と掃除機と調理器がいっぺんに手に入った上サボり場所も確保できるとかいいこと尽くしじゃないですか」
「あんまりな言われようの上にボクのメリット一つもないですよねそれ!?」
「オレは突然いなくなったりしませんよ」
そう言ったら彼は零れんばかりに目を見開いた。あ、顔も割と好み。
「……いなくなったら追っかけるだけです。その辺は大丈夫ですよ」
どうやら振られてしまったらしい。結構本気だったのになあ。