101号室 センペル・アウグストゥスの奇妙な冒険6* 忍者ブログ

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センペル・アウグストゥスの奇妙な冒険6*

※性描写あり


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 はらり、とまた一枚花弁が落ちる。チューリップに残された炎は四枚まで減っていた。

「彼の魂に手を加えていました。本人には世界に与える影響を軽減すると伝えましたが、実際には発生する影響をかなり迂遠なものにした上で、むしろ大きくしていました。彼が西の大陸で魔力を使えば東の島にドラゴンが召喚され、海辺にいれば対岸の荒れ地で突然変異の花が咲く。勇者が勇者であるためには、悲劇と絶望が必要です」

「……そうやってマッチポンプを繰り返してたのか。魔物を倒すために魔力を使い、その影響によってまた魔物が現れる。お前たちは二人で世界を騙していた」

「アルバさんは知りませんでしたよ」

 少なくとも最初のうちは、とトイフェルは言った。物憂げな渦巻きに映した赤い花を、彼は何の慈悲もなく解体していく。花弁が二枚まとめて毟り取られ、マホガニーのテーブルに散った。

「途中で気付いたのかもしれませんね。彼はいつの間にか魔法を使わずに戦うようになりました。『勇者アルバ』でなくては倒せない強力な魔物は現れなくなり、彼の名は忘れられていった」

 赤い花の雄蕊と雌蕊が断面図のように露わになった。どこにも続かぬ病んだ花は、それでも子を成す器官を持っている。シオンは僅かにグロテスクなものを感じた。

「……勇者学校だとか雑誌だとか、ああいう馬鹿みたいなオファーを受けていれば何か違ったのかもしれない、と今になって思います。彼が嫌がろうが照れようがオレはそうするべきでした」

 トイフェルはまた一枚花弁を千切り、投げ捨てた。彼の独白を聞いてシオンは幽かな笑いを漏らした。

「独占したかったんだろう?」

 魂の魔法使いが眉を顰めた。ああ、図星か。誰とも知れぬ連中に身を委ねさせながら、その実自分だけのものにしたかったなんて。そのどす黒い思いは、シオン自身よく慣れ親しんだものだった。喉の奥からくつくつと声が溢れた。

「みんなのものでなくては生きられないあの人を、自分ひとりのものにしようとした。その時点で破綻が見えていたくせに、身を売らせるなんて言う馬鹿げた足掻きまでして」

「……馬鹿げた足掻き、ねえ。まあ確かにそうです。おぞましくささやかでどうしようもない抵抗でしたけど」

 トイフェルの声が硬さを帯びる。ぐずぐずと煮溶かされた鉛ガラスのようだった彼の目に、初めて明確な感情が乗った。それは怒りと、そしておそらくは嫉妬だった。

「あんたもその恩恵に与っといて何言ってんですか」

 

***

 

 宿の指定された部屋の前まで行くと、黒いローブを纏った男が立っていた。久方ぶりの元執事長は以前より隈が濃くなり、顔色も酷く悪い。目が合うと怯えたように肩を震わせてからシオンに会釈をした。

「手紙にはあの人が会いたがってるとあったが」

「……中、に」

「どうも」

 短く言葉を交わし、シオンは部屋に入った。暖色で整えられた室内にアルバの姿はない。代わりに窓際のベッドが人の形に膨れ、深呼吸のリズムで波打っているのが目に入った。呼びつけといて寝てるとかどういうことだゴミ山が。足音を殺して近づき掛布団を引っぺがした。

「……あ、」

 ぼんやりと見開かれたアルバの目を見た瞬間、用意していた罵倒は全て喉の奥に消えた。

 全身に痣があった訳でも痩せこけていた訳でもない。視覚的に言い表すことは出来ないのに、彼は確実に死に絶えんとしていた。風が吹けば塵になりそうな、目を離せば消えそうな、指を伸ばせば突き抜けそうな、滅びる寸前のものだけにある虚ろさと独特のうつくしさがアルバの存在全てに纏わりついているのが分かった。

「ああ、シオン、きてくれたんだ」

 アルバは奇妙な甘さを含んだ声で言った。

「あんた、なんでそんなことになってるんですか……」

 震える問いに返された曖昧な笑顔を認めると同時に、シオンの身体はフローリングの上に崩れ落ちた。

「ぐっ!?」

 四肢の自由がきかない。金縛りでもかけられたのか、一体何のために?アルバはベッドから降り、仰向けに倒れているシオンに歩み寄る。

「何してくれてんですか人呼びますよ」

「音、外に聞こえないようにしてあるから」

 赤い目の奥には絶望的なほどの空漠が揺蕩っていて、シオンは紛れも無い恐怖を覚えた。

 かちゃり、じじじ。ベルトを外され下衣が寛げられる音。なんだこれは。この人は何をしようとしている。混乱に埋め尽くされたシオンの思考は、熱く湿った感触によって吹き飛ばされた。

「ア、ルバさ……あんた一体何して……!?」

 己の目が壊れたのだと思った。アルバがシオンの性器をしゃぶっていた。時折鼻にかかった呼吸音を漏らしながら喉の奥深くまで咥え込み、舌と頬を使って締め付ける。じゅぷじゅぷという濡れた音と共に軟体動物のような舌先が尿道に押し込まれた。シオンの腰が快感に震え、性器が硬さを増していくのを感じる。アルバの伏せられた睫毛には涙が溜まりはじめていた。

「んうぅ……ふ、うぅ……ぅうん、」

 ぐちり、ぬちり、唾液とは異なる粘液の音、床に転がった油の瓶、後ろに伸ばされたアルバの手、びくびくとしなる彼の腰。アルバが何をしているのか、これから何をしようとしているのかは嫌になるほどに明確だった。

「……ぷは、」

 アルバが口を離した。勃起しきったシオンの性器はてらてらと厭らしく光っている。それを眺める彼の顔は先ほどまでの息苦しさと、そしておそらくはこれから行われる行為への興奮から赤く染まっていた。アルバは体を前にずらし、シオンに馬乗りになる。立ち上がった剛直に手を添え、解れきった己の秘孔に当てた。ひくりと蠢く感触にシオンは叫び出しそうになる。

「おいふざけんなやめ……!」

「ひ、んぁ……うあぁあ、ああぁあぁっ!」

「うぁ……!?」

 アルバはそのまま一気に腰を落とした。熱くぬめり痙攣し搾り取る孔に飲みこまれシオンは快感に目が眩む。脊髄を電流が駆け抜ける。荒れ狂う思考をどうすることもできない。温い感触がある。目をやるとアルバと己の腹のあたりを白濁が汚していて、彼が後ろに挿入しただけで達してしまったことを示していた。アルバは融けてしまったような顔をして、小さく喘ぎながら震えている。

 彼とこうなることを夢見ていなかったと言えば嘘になる。けれど、間違ってもこんな意味の分からない状況においてではなかった。きちんと思いを伝えて、くちづけをして、それから繋がりたいと思っていた。だれより幸せにしたかったはずの青年は、シオンを咥え込んだまま一粒だけ涙を零した。

「あ、は……入った。ね、シオン、男を抱くのって初めて?」

「ん、な経験あるわけないでしょうが、強姦魔が」

「そうだよね。ボクは、初めてじゃないんだよ。……男の人とも、女の人とも、何回も、何十回も寝た」

「……は?」

「気持ちよくしてあげるから安心しといて」

「ふざけんなさっさと抜け!」

「だぁめ」

 アルバは死にそうな顔で笑って、腰を動かし始めた。ぬちり、と音がした。

 

「うぁ、ああぁあ!やらぁ……あ、あぁああ……ひぁ、や、らめ、ふあぁっ!」

「……っく、うぁ、」

 堪えようともしない嬌声は擦れはじめていた。ぬちゃぬちゃと淫猥な音を立てながらアルバが腰を振る。別の生き物のように蠢く潤んだ内壁はシオンを呑み込んで離そうとせず、執拗に擦りたてては暴力的な快楽を送り込んでくる。アルバは既に後ろだけで2度達していた。淫蕩にのぼせ上った眼からはぼろぼろと涙が落ち、開きっぱなしの口には涎が細く光っていた。

「ひぁあ……やら、あぁ……許し、も、ロス、ゆるして、」

 己で己を犯しながら、アルバは何故かシオンに許しを請い続けた。過ぎた快感に歪んだ顔はいっそ苦し気で、シオンは手を伸べて慰めてやりたいとすら思った。ね、ロス、たすけて、いく、も、いっちゃう、譫言のように繰り返しながら彼が腰の角度を変えると、シオンの切っ先が弾力のあるしこりをぐりりと抉った。

「ああぁ……ああ、うああぁぁあ、ああぁっ!」

「……う、ぁ!」

 びくりびくりとアルバの内側が激しく痙攣し、咥え込んだものを引き絞りしゃぶり尽くそうとする。背筋を、腰をびりびりとした叩きつけるような快楽が走り抜け頭の中が一瞬白くなる。断末魔のような声を聞きながら、シオンはアルバの内に熱を放った。

「なか、あつい……」

 体重を支えられなくなったアルバは前のめりに崩れ落ちた。シオンの顔のすぐそばにある狐色の髪からは懐かしいにおいがするのに、彼の心中はまるで見えない。気だるい頭の中に冷たい焦燥が広がってゆく。

「……アルバさん、金縛り解いてください」

「解いたら、逃げるだろ」

 肩で息をしながらアルバが言う。泣きそうな声だった。

「逃げません」

「逃げてもいいからさ、その前にボクに言いたいこと全部言ってよ。気持ち悪いとか最低とか死ねばいいとか、ボクの頭じゃ思いつかないような、酷いこと全部。それから殴ってくれ。好きなだけ。頬でも頭でも腹でもいい。アバラも折っていいし、歯もいいよ。目玉も、右なら抉っていいから。だから、」

「解いてください」

「……わかった」

 一瞬の後にぼんやりとした光が立ち上り、シオンの身体は軽くなった。

 身を起こす。繋がったままの中をかき回されたアルバが息を飲んだのには構わず、シオンは彼を搔き抱いた。

「え、なんで、」

「こっちの台詞です。久しぶりに会えたと思ったら死にそうになってるし逆レイプされるしで本当に意味が分からないんですけど。きちんと説明してくれないなら思わず檻付いた病院にぶち込みますよ」

 シオンの肩に頭を預けていたアルバは、引き攣る笑いを小さく零した。

「……あたまのなかでおとがするんだ」

 時計のおと、ボクを燃やし尽くす炎のおと、全部白く塗りつぶしてしまうおと。ボクは最低の嘘吐きで生きていくためにたくさんのものを騙してきたけど、それでももう駄目で、もうすぐなにもかも台無しになってしまう。しっちゃかめっちゃかだ。ボクは空っぽだ。最初から空っぽだったんだ。皮膚も体の中ももっと内側もなにもかも汚くて、もう手遅れだっていうのに、本当のところは何も感じちゃいない。何にもないんだよ。きっと死ぬことだって怖くなくて、ただ死なないでって言われてそれを断れなかったから生きてただけで、嘘を吐いたことだって多分心の底から悪いとは思ってない。必要だって言われたからそこにいただけだ。自分で何も考えていなかったんだ。こんなクソみたいな状況なのにボクはまだ悲しいとすら感じてないんだよ。ねえロス、お前だけなんだ、ボクが必要だと思った人間ってきっとお前だけだ。お前がボクを嫌ってくれたら、必要ないといってくれたら、その時やっと空っぽのボクはきちんと絶望できて、きちんと消え去れるのだと思う。だからお願いだ、ロス、ねえ、助けて。

 アルバはいつの間にかしゃくり上げはじめていて、シオンの背に回した腕は震えていた。

「アルバさん、」

「うん」

「ここから少し離れた港町に家を建てたんです。二階建て南向きの青い屋根の家で、小さいですけど庭もある。独りで住むには広すぎる以外とてもいい家です」

「……え?」

「泣いてるし興奮してるしで何言ってるか全然分かんないんですよあんた。あったかい飲み物くらいは出してあげますから、場所替えてゆっくり話しましょう」

「……はは、無理だよ」

「じゃあ鍵渡しときますから無理じゃなくなったら来てください。言っときますけど拒否権はないので」

 抱きしめる力を強めると、アルバが一度びくりと震え、それからシオンの頭に頬を寄せた。ひどいよ、と小さく呟いて。

「アルバさん」

「なに」

「キスしていいですか」

「……お前、ほんとにひどいやつだ」

 詰る声はとても苦しそうで、少しだけ嬉しそうだった。

 

 

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