101号室 アンリライアブル・ナレーターは夜に泣く6 忍者ブログ

101号室

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

アンリライアブル・ナレーターは夜に泣く6


 ボクは宿を飛び出していた。

 何故あのスカーフが鞄の中にあったのか。ロスが持って行ってしまったのではなかったのか。

 ――あいつは魔法なのだから、現実に存在するスカーフなんて必要ないのかもしれない。もしかしたらこの前いなくなったときに置いて行ったのかも。その気になれば説明は付けられる。

 けれど、頭は全く納得していなかった。マーラの言葉。ルキの言葉。謎のフラッシュバック。嫌な予感はあまりに確信に近く、背筋を走る冷たさは恐怖と同じだった。

 限界だ。意味が分からない。もう直視しない訳にはいかない。ボクが壊れてしまう。

 闇雲に走り続けていたらいつの間にか街の外に出ていた。

 凪いだ草原の空気はつめたく透き通る。遮るもののない天の光が、いつかと同じ恐ろしい夜を歌っていた。

「ロス!!」

 喉が裂けるばかりに声を張る。ボクは絶叫した。そうでもしないと気が狂いそうだった。

「いるんだろう、出てこい!話がある!!」

 暗闇にボクの声が響き渡る。この世の果てまで届いてしまいそうなくらいに。

 ボクは震えていた。そうならなければいいと思っていた。けれど、それが無理だとも知っていた。

 影が一つ落ちてくる。

「時間を考えてください。近所迷惑ですよ、勇者さん」

 散歩にでも出るような気軽さで、「ロス」は姿を現した。

 

*

 

「お前……何で、どういうこと、」

 心臓は爆発してしまいそうなくらいに激しく脈打っていた。目の底が熱い。息が上手くできない。

 それを見た彼は「興奮しないでください気持ち悪いんで」といつもの調子で罵倒を投げて、それから薄く笑った。赤いスカーフをたなびかせて。

「残り時間はゼロになりましたか。後は公正を期すためのロスタイムってとこですね」

「話があるんだ、頼む、教えてくれよ!もう限界なんだ!」

「訊ねてみればいいじゃないですか。ただし俺は知ってることしか言いません」

 まただ。不可解な言い回し。ボクを煙に巻くつもりなのか。

 もう迷ってはいられなかった。核心に切り込まなくてはいけない。何もかもが破綻する前に。

「お前は、何者なんだ」

「どうなんですかね。あなたは俺を何者だと思ってるんですか」

「……『本物のロス』が、ボクに残した魔法か何かだと」

「本当に?心の底から?」

 彼の目があの日と同じ入り組んだものを浮かべる。息が止まった。

「気付いていたんでしょう?そんなものじゃないってことくらい」

 そうだ分かっていた、何かしらの言葉に出来ないような違和感を覚えていた、でも、やめてくれ、やっぱり嫌だそれ以上は駄目だ聞きたくない!

 ボクは耳を塞げなかった。塞いだとしても意味がなかった。

 

「俺はあなたです」

 

 

拍手[2回]

PR

プロフィール

Master:かのかわ
mail:doublethink0728◎gmail.com
(◎→@)

ブログ内検索

Copyright ©  -- 101号室 --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Photo by Geralt / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]