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ボクは宿を飛び出していた。
何故あのスカーフが鞄の中にあったのか。ロスが持って行ってしまったのではなかったのか。
――あいつは魔法なのだから、現実に存在するスカーフなんて必要ないのかもしれない。もしかしたらこの前いなくなったときに置いて行ったのかも。その気になれば説明は付けられる。
けれど、頭は全く納得していなかった。マーラの言葉。ルキの言葉。謎のフラッシュバック。嫌な予感はあまりに確信に近く、背筋を走る冷たさは恐怖と同じだった。
限界だ。意味が分からない。もう直視しない訳にはいかない。ボクが壊れてしまう。
闇雲に走り続けていたらいつの間にか街の外に出ていた。
凪いだ草原の空気はつめたく透き通る。遮るもののない天の光が、いつかと同じ恐ろしい夜を歌っていた。
「ロス!!」
喉が裂けるばかりに声を張る。ボクは絶叫した。そうでもしないと気が狂いそうだった。
「いるんだろう、出てこい!話がある!!」
暗闇にボクの声が響き渡る。この世の果てまで届いてしまいそうなくらいに。
ボクは震えていた。そうならなければいいと思っていた。けれど、それが無理だとも知っていた。
影が一つ落ちてくる。
「時間を考えてください。近所迷惑ですよ、勇者さん」
散歩にでも出るような気軽さで、「ロス」は姿を現した。
*
「お前……何で、どういうこと、」
心臓は爆発してしまいそうなくらいに激しく脈打っていた。目の底が熱い。息が上手くできない。
それを見た彼は「興奮しないでください気持ち悪いんで」といつもの調子で罵倒を投げて、それから薄く笑った。赤いスカーフをたなびかせて。
「残り時間はゼロになりましたか。後は公正を期すためのロスタイムってとこですね」
「話があるんだ、頼む、教えてくれよ!もう限界なんだ!」
「訊ねてみればいいじゃないですか。ただし俺は知ってることしか言いません」
まただ。不可解な言い回し。ボクを煙に巻くつもりなのか。
もう迷ってはいられなかった。核心に切り込まなくてはいけない。何もかもが破綻する前に。
「お前は、何者なんだ」
「どうなんですかね。あなたは俺を何者だと思ってるんですか」
「……『本物のロス』が、ボクに残した魔法か何かだと」
「本当に?心の底から?」
彼の目があの日と同じ入り組んだものを浮かべる。息が止まった。
「気付いていたんでしょう?そんなものじゃないってことくらい」
そうだ分かっていた、何かしらの言葉に出来ないような違和感を覚えていた、でも、やめてくれ、やっぱり嫌だそれ以上は駄目だ聞きたくない!
ボクは耳を塞げなかった。塞いだとしても意味がなかった。
「俺はあなたです」