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「ボクに何かできることありますか」
散々悩んでから意を決したようにそう言った。幼くて柔らかくてすぐに死んでしまいそうな子どもだ。
何もないかな。正直に伝えたらとても悲しそうに顔を歪めて、じゃあ、と続けた。
「アルバさーん」
「うおおびっくりした!机の引き出しにゲート開けて出てくるのやめてよ!」
「猫型ロボットリスペクトだよ!」
上半身だけ覗かせたルキをアルバが引っ張り上げる。少女は小ぶりな箱を抱えていた。
「お届けものです!ハジマーリのお城から小包だよー」
「おー。ありがと」
アルバは箱を受け取ると封を切り中を覗き込む。それから、可愛らしい細工の施された缶を取り出してルキの方に伸べた。
「はいこれお駄賃。多分中身はキャンディかな」
「やったー!」
ルキは小さく飛び跳ねて喜んだ。アルバは箱の中の物品を机に並べて確認し始める。
「そういえばルキ、今日はトイフェルさんってどうしたの?いつもあの人来てくれてたけど」
「なんか体調悪いらしいよ。私に頼んで帰っちゃった」
「そっかー。あの人ボクんとこ来ると何故か異常に緊張して舌とか噛みまくるし、そっちの方いいんだろうね」
「誰にでもそんな感じだと思うよ」
「確かに……」
数通の手紙と写真、菓子の缶などが取り出されて箱は空っぽになった。
ルキはそのうちの一つ、王家の封蝋が施された白い封筒に視線を遣る。
「何か仰々しいの来てるね。今度は誰の服剥いじゃったの?」
「訴状じゃないからね!?多分学校関係のかな」
「学校?」
アルバはペーパーナイフを取り出して封を開け、あーやっぱり、と呟いた。
「勇者学校っていうのを作るんだってさ。勇者を育てる学校」
「……魔王は死んだのに?」
「いるじゃないか、ここに」
アルバは悪戯っぽく笑う。
「どうせ王様の思いつきだろうけどね。前々から計画書みたいなのは送られてきてたんだけど、今回正式に設立が決定したらしいよ」
「何かよく分かんないけど凄いね……。アルバさんは何になるの?理事長?校長先生?」
「いや、別に何もならないよ」
「え?」
「理事長がヒメちゃんで校長がアレスさん。フォイフォイさんが先生に内定だって。あの人教師とかできんのかなー」
「……え、でも『勇者』学校なんだよね?『勇者アルバ』はいなくていいの?」
「ボクここから出れないだろ?魔力の影響で生徒全員ツルッパゲにするのも申し訳ないし」
いつになったら制御できるようになるのかなあ、と苦笑するアルバに、ルキは微笑み返すことが出来なかった。反応があまりに軽い。功績と名声だけ利用して牢に押し込めている王に対して怒りは無いのか。自分を残して進んでいく世界に何も思わないのか。
アルバさん、あなたはそれで幸せなの。
言葉を見つけられずただ見つめる少女に気付き、囚人服の勇者は心配そうに話しかけた。
「ルキ?どうかしたの」
「ねえ、アルバさん、」
ルキは何故か泣き出しそうな気分になった。
「私がこの牢屋を出て一緒に逃げようって言ったとしたら、そうしてくれる?」
「それはできないよ」
即答だった。
どうしてそんなこと突然聞いてくるのか分からないけど、とアルバは続ける。
「ルキにはお父さんとお母さんもいるし、もうすぐ妹だって生まれるじゃないか。ボクと一緒に居なくなったりしたらみんな悲しむよ。それにお前は3代目魔王なんだから逃げ回ったりしないで堂々としてなくちゃ」
お手本のような回答が少女の心を抉り取る。この人は私のものになってくれないし、私の分かるものでもないのかもしれない。
彼は無辜の囚人である己に何の哀れみも抱いていない。最早恐ろしくすらあった。
この人を私たちの世界に繋ぎとめておけるもの。たった一つしか思い当たらない。
「じゃあ、シオンさんは?あの人がもし、アルバさんと行かなきゃ死んじゃうとしたら」
アルバは難しい顔をして、それでもはっきりした声で言った。
「死んじゃうなら当然助けに行くよ」
だってボクは勇者なんだから。