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埋み火よせめて骨も残さず

 

 赤ペンのキャップが閉まる音に続いて差し出された答案にはマルとバツが踊っている。最近になってようやく前者の割合が増え始め、アルバは少しだけ得意になっていた。この後起きるであろうことを忘れる程度に。

 腕を掴まれ、後ろに引かれ、まずいと思った時には既にベッドの上に投げ出されていた。体の主導権を取り戻すより先に影が圧し掛かる。熱に浮かされたような浅い呼吸が頬を撫でるのを感じた。肩は縫い付けられるようにして固定され、身じろいだ程度では逃げることは出来ないように思われた。

 アルバの学習は遅いが適応は早い。事前の対策は取れずとも事後的に自分を騙しきれるということ。肉体的損傷だとか精神的外傷だとかの諸々を秤にかけたときどうするのが最適なのかは既に理解していたが、それでも数値化できないもののために一応は抵抗を試みることにしている。名誉も誇りは吹けば飛ぶけれど。

「どいて」

 睨まれた。

 ぎらぎらと乱反射するようにひかる目には涙すら伴った切実さが浮いていて、その視線が舐めたところから順にじりじりと焼け焦げてしまうような気がした。燻る炎を移そうと懸命な様にアルバはおそろしさとある種の感動を覚えるのだけれど、そのほの赤いもののどこかには確実に哀れみが混じっていた。不自由な男だなあと思う。これほど飢えているくせに教科書を開いている間は涎を飲みこむ動きも見せないのだから。何がお前をそうさせるの、と尋ねる気力は流石に無かった。

「どいてってば」

「嫌ですさっさと諦めてください」

「こういうのよくないと思うんだけど。ちゃんと順番を踏んで合意の上で進めていこうよ」

「あなたの意思表示なんて待ってられると思いますか」

「決定権認めないような相手に乗っかっちゃうのもどうかと思う」

 もうちょっと自分大事にすれば。その響きがあまりに投げ遣りで、アルバは自分で驚いた。蟀谷を殴る拳には力が入っておらず、大した痛みを感じなかった。

 白と黒の身体は小刻みにかたかたと震え、けだものめいた呼気の湿り気は増していた。血の上った頬は埋み火でも抱いているように燃えていた。眉は痛みを堪える形に顰められていた。その必死の有様に、アルバは何故か罪悪感を覚えた。これから搾取され貪られ好き勝手に高められるのは分かっていたが、それでも自分が謝罪しなくてはいけないような気分にさせられたのだった。対象がまるで見当もつかなかったので結局やめてしまったが。代わりに、妥協と歩み寄りを示すことにした。

「お前はどうしたいの」

 自分でも呆れるほどに押しに弱い人間だった。このせいで現在の危機を含む様々な問題を引き起こしてきたのだと知っていても、目の前の存在に乞われれば嫌と言うことができない。彼の暴挙とて懇請のひとつのかたちであると理解してしまえば、アルバはそれを押しのけることができなかった。

 喉が出来損ないの笛のような音を立てるのを聞いた。男の苦しみは弥増しているようだった。

「……舐めさせてください」

 戦慄く声の後を、涙が一粒追った。今にも血を吐きそうな顔をしていた。

「尿道に舌突っ込んで竿も亀頭も涎でべとべとにして上顎と喉ガンガン突かれて吐きそうになりながらしゃぶりたいんです、裏筋噛んで玉しゃぶって全部ぐちゃぐちゃにして、それから後ろで咥えさせてください。好き勝手突っ込まれて壊れそうなくらい揺さぶられて中に出されてそのまま掻き回されて何にも考えられないくらい真っ白になったままイきたいんです、お願いだから、はやく、ねえ、」

 興奮の顕れというよりは嘔気をやり過ごそうとしているような酷い呼吸の仕方だった。抱え込んだ哀れみが一気に太り出したので、アルバはそれ以上何も言わないことに決めた。自由になる肘から下を操って、彼の上衣のジッパーを下げた。赤く色づいた場所を弄りながら熱を持ったものを膝で突けば、あっさりと腰が崩れた。体勢を入れ替えるとき、ちがうんです、という掠れた声が漏れ聞こえた。

 何がどう違うのだろう、とアルバは思う。彼が何を望んでいるのかまるで分からない。アルバがこんな行為に応じるのは結局のところ彼が好きだからなのだけれど、それではいけないのだろうか。二度と元に戻らないくらい滅茶苦茶にしてくださいと言われても、当然応じる訳にはいかなかった。

 組み敷かれたシオンは腕で顔を覆ってしまっていて、その顔は見えなかった。

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